スピガット・モーター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/24 04:15 UTC 版)
"spigot mortar"、直訳すると「差込型迫撃砲」となるこの兵器は、第一次世界大戦時にミーネンヴェルファーやストークス・モーターと共に多用された曲射砲の一形態で、ロケットランチャーに近い運用がなされた。ただし、砲弾はロケット弾のように飛翔中に推進されるわけではない。 構造は一般的な迫撃砲よりも更に簡素で、基底部(台座)に棒状または中空のロッドが接合され、砲弾をロッドに差し込むことで装填される。支持架はないことも多い。ロッド(砲身)の直径よりも大口径の砲弾を装填できるため、砲自体のサイズと比してかなり大きい砲弾を射出できることが特徴である。ただし、破壊力が大きい反面、命中精度や射程、発射速度は劣り、例えば第一次大戦で用いられた2インチ中迫撃砲の射程はニュートン6インチ迫撃砲の半分以下である(砲弾重量はいずれも約24kg)。 このため、第一次大戦後はストークスの迫撃砲に淘汰されてほとんど用いられなくなった。歩兵の直協支援用としては砲弾が重過ぎて少量しか携行できない上にストークス型ほどの速射はできず、また、火力支援用としてはロケットランチャーのほうが射程も長く軽便で、性能が中途半端だったためである(ロケットランチャーも命中精度は同様に悪い)。 しかし、日本陸軍は大威力を簡便に扱える点に着目して九八式臼砲を開発し、太平洋戦争で運用した。また第二次大戦中のドイツ国防軍は、二線級兵器となった小口径火砲にスピガット・モーターのような差込式の外付け砲弾を用いて火力の不足を補っていた。戦後においても、第一次中東戦争で兵器不足に悩まされたイスラエルがダヴィドカ迫撃砲を生産して使用している。 なお、野戦用としては使われなくなったが、スピガット・モーターの構造や射出方式は幅広く応用されており、スピガット・モーターから派生した兵器は下記のとおり少なくない。それぞれの詳細は当該記事を参照。 小銃擲弾 小銃擲弾は小銃の先端に装着して曲射する擲弾のこと。第一次大戦時に使用された初期のものは反動が強く、台座を利用したり銃床を接地して軽迫撃砲のように射撃するものが多かった。 現代ではグレネードランチャーが普及したため、米軍では殆ど用いられないが、22mmライフルグレネードとして東西両陣営で標準化されている。「専用のランチャーなしでも撃てる、小銃さえあれば誰でも撃てる」という、グレネードランチャーにはない特長があるため、自衛隊をはじめ、イタリア軍やフランス軍などグレネードランチャーより積極的に用いている国もある。 対戦車兵器 第二次大戦中に開発されたイギリスのブラッカー・ボンバードやPIATは、薬室後方が閉鎖されているという構造上の特徴や曲射弾道という点でスピガット・モーターに分類される。 また、戦後登場したソ連のRPG-7は、発射機のサイズのわりに大きめの砲弾を使用できるというスピガット・モーターの特徴と、ロケット弾を組み合わせた画期的な携行型対戦車兵器である。 対潜兵器 爆雷をより遠くまで投射するためにスキッドやリンボー、ヘッジホッグなどの対潜兵器が開発され、駆逐艦やフリゲートなどに搭載された。これらは「対潜ロケット弾」と訳されることが多いが、厳密には多連装のスピガット・モーターである。日本語の「迫撃砲」という用語には馴染まないが、「対潜迫撃砲」と訳されることも多い。 22mmライフルグレネード画像はM1ガーランドに装着されたもの。銃弾より重いグレネードは、反作用の影響で反動も相当大きくなる PIAT(ピアット)第二次大戦中に英国が使用した歩兵携行型の対戦車兵器。構造上の特徴から"anti-tank mortar"に分類される。最大射程350mで、100mm厚の装甲を貫徹できる成形炸薬弾を射出した ヘッジホッグこちらも第二次大戦中に英国が開発した対潜兵器で、一度に24発など多数の弾頭を射出できた。爆雷とは異なり接触起爆型のため深度が限定されず、対潜水艦戦で大きな効果を発揮した。ちなみに、「ヘッジホッグ」とは「ハリネズミ」のことである
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