さまざまな昆虫の翅
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 14:00 UTC 版)
シミなどの昆虫は、翅を発達させる前の昆虫の姿を伝えるものと考えられているが、それ以外の昆虫はすべて、翅をもつものか、翅を持っていたが二次的に退化させたもの(ノミ目、シラミ目など)とされている。 その中で、古い翅の形をもつのは、カゲロウ目とトンボ目である。この両者は、左右の翅を羽ばたきの方向以外の向きに動かすことが出来ず、広げたままにするか、上にそろえて片付けることしかできない。また、両者とも幼虫が水中生活であることも共通している。トンボは、空中の一点に留まる事ができ(ホバリング)、宙返りが観察された種もある。翅には横方向から見て折れ曲がった構造をしていて凹凸があり、飛行中に気流の渦ができる。その発見以前の翼の理論では、そのような状態は失速のように、性能が劣ると考えられていた。 それ以外の昆虫は、ほとんどが翅を羽ばたきの方向に対して後ろ向きに折り畳み、背中に重ねるようにして片付けることができる。ゴキブリも古い形質をもつ昆虫であるが、翅を下翅二枚、上翅二枚と交互に重ね、背中に密着させて畳む。従って、ふだんは翅がコンパクトに片付けられており、狭い隙間に潜り込んだり翅の損傷を防いだりする際に有利だと考えられている。 大部分の昆虫は、翅を四枚もつが、実質は二枚として使い、トンボのように前後別々に動かすことはない。チョウは前後の翅の一部を重ね、同時に羽ばたかせる。セミやハチ、チョウ以外の大半のチョウ目(いわゆるガ)などでは、前翅と後翅が一体となって動くよう、前翅の後縁と後翅の前縁が互いに引っ掛かるように鉤がついている。 また、コウチュウ目の場合、後翅は膜状で薄く広いのに対し、前翅は硬化していて鞘翅と呼ばれる。平常時、後翅は折り畳んで背中に密着させ、前翅は後翅や腹部を守るようにその上を覆っている。外から見ると背中を甲羅が覆っているように見えることから、「甲虫」の名がある。コウチュウ目の多くの昆虫では鞘翅を飛翔時にバランサーとしても使う(この例外としてはハナムグリが挙げられる)。また、飛ぶことのないオサムシやゾウムシの一部の種類では、左右の鞘翅が互いにくっついて保護の役割のみを果たしている。同様のことはカメムシ亜目やハサミムシでも見られる。 さらに、ハエ目では、翅が二枚しかない。これは、後翅がごく小さく、先端が球状に膨れた、こん棒状の器官に変形してしまっているためで、これを平均棍と呼ぶ。平均棍は前翅の運動と同期して高速で回転し、ジャイロスコープと同様に慣性によって虫体の動きを感知する感覚器として働いている。昆虫で最もうまく飛ぶのもハエ目のもので、種類にもよるが、昆虫のなかでは最速のもの、空中停止(ホバリング)できるもの、宙返りできるものなど、さまざまである。また、カ類の羽ばたき回数は毎秒600回に達し、ブユなど毎秒1000回の羽ばたきをするものさえいる。
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