『中小レポート』から『市民の図書館』へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/03/01 03:30 UTC 版)
「市民の図書館」の記事における「『中小レポート』から『市民の図書館』へ」の解説
前述の通り『市民の図書館』は『市立図書館の運営:公共図書館振興プロジェクト報告1969』に修正を加えて刊行されたものであるが、その内容は『中小レポート』の理論を軸に、日野市立図書館で行われた活動を再び理論化してフィードバックさせたものと捉えることができる。したがって『市民の図書館』は『中小レポート』と強い連続性を持つものであるが、その理論は『中小レポート』と比べて一層明快となった。『中小レポート』では、その冒頭において「公共図書館の本質的な機能は、資料を求めるあらゆる人々やグループに対し、効率的かつ無料で資料を提供するとともに、住民の資料要求を増大させるのが目的である」と表現したが、『市民の図書館』では公共図書館を「国民の知的自由を支える機関であり、知識と教養を社会的に保障する機関である」と規定している。この公共図書館の本質的な機能の定義から演繹的に図書館の理念および達成すべき目標が導かれ、中でも当面の目標として、1. 市民の求める図書の自由で気軽な個人貸出、2. 児童の読書欲求に応える徹底したサービス、3. 図書館を市民の身近に置く全域的なサービスの実施の3点を最重要の要目とした。『中小レポート』では児童奉仕を重視しなかった点、個人貸出よりも団体貸出を重視した点などが問題点として指摘されたが、『市民の図書館』では大都市周辺の衛星都市の急速な発展を背景として個人意識の強い市民のニーズに対応し、児童サービスと市内全域の網羅的なサービスを重視しており、『中小レポート』の問題点を克服して発展的に継承するものとなった。 『中小レポート』で提示された理論の中には、図書費の臨界点についてなど、それまで仮説の域に留まるものもあったが、日野市立図書館の活動によって実証的な裏付けを得たことで、その成果をフィードバックした『市民の図書館』では、新たに年間貸出冊数の基準を持ち込み、人口1人あたり2冊を目標として貸出活動を図書館の活動の中心に据えるべきとする方針が示された。それまで図書館のアウトプットすなわち図書館が提供したサービスについて定量的な基準が示されたことはなく、サービスの目標値についての考え方は後に公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準においても取り入れられた。また、当初図書館界向けの報告書であった『市立図書館の運営』は、市販にあたって『市民の図書館』に改題されている。この、一般市民を読者として想定して広く読まれることを企図した点も『中小レポート』と大きく異なる点であり、「市立」を「市民」に変えることで同書は町村の図書館をも対象とすることを視野に入れ、また読書会や貸出文庫など集団読書についての言及を排して図書館のサービス対象を一人ひとりの市民としたのである。
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