「ニンマ・カマ」の系統
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「ゾクチェン」の記事における「「ニンマ・カマ」の系統」の解説
「ニンマ・カマ」(rnying ma bka' ma:古派の口頭伝承経典)の系統とは、いわゆる古タントラに付随するゾクチェンの系統である。最も早期のものは、歴史上のパドマサンバヴァが伝えた『大幻化網タントラ』(梵名:グヒヤガルバ・タントラ)を皮切りとして、前行(ンゴンドゥ)の発展系である「グルヨーガ」を中心とするゾクチェンの修行・瞑想法である。前行は『金剛頂経初会』をベースとした行法で、無上瑜伽タントラの主要な五タントラのそれぞれにあり、チベット仏教四大宗派おのおのが独自の前行を伝えている。ゾクチェンと前行との深い関係は、ドゥジョム・リンポチェの講演録『ゾクチェンへの道』に詳しい。『大幻化網タントラ』の伝承系統の解明はドゥジョム・リンポチェの『ニンマ仏教史』に始まるが、1959年に亡命先のインドにおいて、ドゥジョム・リンポチェが外国人に対して世界で初めて『大幻化網タントラ』の大灌頂と伝授(全伝)を行なった際の伝授録『大幻化網導引法』の中でも、この系統のゾクチェンについて触れている。また、ニンマ派では密教の伝承そのものがゾクチェンの系統の解明に繋がり、この系統のゾクチェンにおいては伝授に関わるパドマサンバヴァの「3つの秘密の名前」:(1)「ペマ・サンバヴァ」(パドマサンバヴァ)、(2)「ペマ・ジュンネー」(ツォキェー・ドルジェ)、(3)「シャーキャ・センゲ」(シャーキャ・シンハ)等に由来する。なお、ニンマ派には密教の伝承として、日本密教における『大日経』の「南天鉄塔」説話と同様の系統伝承がある。ソギャル・リンポチェとギェーパ・ドルジェ・リンポチェの日本講演によると、密教は大日如来が教えを説き、それを金剛手菩薩(ヴァジュラ・パーニ:憤怒相)へと伝え、さらにそれを(密教における)仏陀もしくはガラプ・ドルジェに伝えてインドにおいて説かれたとする。ゾクチェンの主尊の法身普賢(クントゥサンポ)は金剛手菩薩の異名であるので、密教の龍猛菩薩(ナーガールジュナ)と同時代の人として、この系統ではガラプ・ドルジェの実在を考えることができる。 旧来のニンマ派では、ガラプ・ドルジェは釈迦滅後15年に生まれたとの伝承から、チベット仏教では釈迦滅時を紀元前150年〜紀元後150年に設定するため様々な誤解が生じていたが、ニンマ・カマの系統によるゾクチェンの理解からはそのような問題は生じない。また、釈迦についても、先述の伝承における密教の教主の仏陀であれば、龍猛菩薩(=龍樹菩薩)と同じくインド密教史上に釈迦(シャーキャ)もしくは仏陀(ブッダ)の名の付く人物が数多くいる。いずれにせよ『大日経』の成立年代からたどると『大幻化網タントラ』の成立も密教学では既に比定され、その曼荼羅も解明されていて、それらを日本人が重ねて伝授を受けているので、この系統では、先行経典も含めてガラプ・ドルジェは7世紀〜8世紀に実在した無上瑜伽タントラの伝承者であってもかまわないことになる。事実、この系統のゾクチェンのタンカ(仏教絵画)には、インドのパンディタ(大学者)の姿をした僧形のガラプ・ドルジェが描かれるのを見ることができる。 ニンマ派において『大幻化網タントラ』のテキストはマハーヨーガに、本尊「大幻化金剛」の成就法(秘密本尊法)はマハーヨーガとアティヨーガとに分類される。伝承系統の一例(ミンドルリン寺流)を挙げると以下のようになる。 ヴァジュラパーニ(蔵名ベンザ・パニ:秘密主・金剛手菩薩、クントゥ・サンポの異名) インドラブーティ(indrabhūti、蔵名ギャルポ・ザ:国王ザ、7 - 8世紀) クク・ラージャ(蔵名ククリパ、kukkuripa:7 - 8世紀) ブッダミトラ(漢名:仏密、8世紀) プラバーハスティ(Prabhāhasti:ヴィクラマシーラ大僧院の僧長、8世紀) パドマサンバヴァ(8 - 9世紀) ヴィマラミトラ(8 - 9世紀) ヴァイローチャナ(8 - 9世紀) ジャナクマーラ(8 - 9世紀)
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