酵素反応 酵素反応の概要

酵素反応

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/03/16 01:46 UTC 版)

酵素反応速度

日本工業規格に「酵素は選択的な触媒作用を持つタンパク質を主成分とする生体高分子物質」 (JIS K 3600-1310) と定義されているように触媒として利用されるが、化学工業などで用いられる典型的な金属触媒とは反応の特性が異なる。

説明図 酵素反応速度曲線.PNG

第一に酵素反応の場合、基質濃度 [S] が高くなると反応速度飽和する現象が見られる。酵素の場合、基質濃度を高く変えると、反応速度は飽和最大速度 Vmax へと至る双曲線を描く。一方、金属触媒の場合、反応初速度 [ν] は触媒濃度に依存せず基質濃度 [S] の一次式で決定される。

このことは、酵素と金属触媒との粒子状態の違いによって説明できる。金属触媒の場合、触媒粒子の表面は金属原子で覆われており、無数の触媒部位が存在する。それに対して酵素の場合、酵素分子が基質に比べて巨大な場合が多く、活性中心を高々1か所程度しか持たない。そのため金属触媒に比べて、基質と触媒(酵素)とが衝突頻度しても(活性中心に適合し)反応を起こす頻度が小さい。そして基質濃度が高まると、少ない酵素の活性中心を基質が取り合うようになるので、飽和現象が生じる。このように酵素反応では、酵素と基質が組み合った基質複合体を作る過程が反応速度を決める律速過程になっていると考えられる。

また、酵素反応において基質複合体の濃度 [ES] の時間応答を調べると、系に酵素を投入しても、基質複合体を形成するのに時間がかかるので、濃度 [ES] は緩やかに上昇する。その後は生成物 P の産生が始まって濃度 [ES] は定常状態となる。このように基質複合体濃度の立ち上がりの前の定常状態とその後の定常状態が観測されるのも、酵素反応の特徴である[1]

酵素反応の定式化

1913年L・ミカエリスM・メンテンは酵素によるショ糖の加水分解反応を測定し、「鍵と鍵穴」モデルと実験結果から酵素基質複合体モデルを導き出し、酵素反応を定式化した。このモデルによると、酵素を用いた系では以下の式で反応が進行する。

酵素 (E) + 基質 (S) \rightleftarrows 酵素基質複合体 (ES) → 酵素 (E) + 生産物 (P)

すなわち、酵素反応は、酵素と基質が一時的に結びついて酵素基質複合体を形成する第1の過程と、酵素基質複合体が酵素と生産物とに分離する第2の過程とに分けられる。

この理論から導かれるミカエリス・メンテン式によって、酵素反応の反応速度が求められる。ミカエリスとメンテンによる最初の理論は E + S と ES との間の化学平衡を仮定しており、ゆっくりと生成物へと反応が進行する場合の近似だったが、のちにブリッグスとホールデンがより一般的な定常条件を仮定し、その場合でも同様の式が成り立つことを示した。

酵素と基質が酵素基質複合体を形成する過程(上記の式の第1の過程)は、可逆過程として扱うことができる。この反応が定常状態である時の平衡定数ミカエリス・メンテン定数と呼ばれる酵素反応の重要なパラメータで、 Km と表記される。この定数は酵素と基質の親和性を表すパラメータであり、以下の性質を持つ:

  • Km値が低いと酵素と基質の親和性は高く、素早く複合体形成するが生成反応の進行は遅い。
  • Km値が高いと酵素と基質の親和性は低く、ゆっくりと複合体形成するが生成反応の進行は素早い。

なお、Km の実測値は、酵素反応の反応速度が最大速度Vmaxの2分の1となるときの基質濃度と同じ値になる。

また、Vmax と関連した分子活性 kcat という値が存在する。これはタンパク質1分子あたり、1秒間に何個の基質を触媒するか、と言うパラメータである。式は以下のように表される。

kcat = 基質分子濃度 (M)/酵素分子濃度 (M) × 秒

ここで右辺は分子と分母に濃度の単位を持つのでこれを約すと、kcat は s−1 という単位で現される。例を挙げれば、酵素1分子あたり1秒間に100個の基質分子を触媒すれば 100 s−1 となる。炭酸脱水酵素には極めて活性の高いものがあるが、この酵素は1秒当たり百万個の二酸化炭素炭酸イオンに変化させる (kcat = 106 s−1)。

阻害様式と酵素反応速度

酵素の反応速度は、基質と構造の似た分子の存在や、後述のアロステリック効果により影響を受ける(阻害される)。阻害作用の種類によって、酵素の反応速度の応答の様式(阻害様式)が変わる。そこで、反応速度や反応速度パラメーターを解析して阻害様式を調べることで、逆にどのような阻害作用を受けているかを識別することができる。

阻害様式は大きく分けると次のように分類される:

  • 拮抗阻害(競争阻害)
  • 拮抗的ではない阻害
    • 非拮抗阻害
    • 不拮抗阻害
  • 混合型阻害

酵素の反応速度曲線を阻害剤のない原系の場合を青線、阻害剤の存在する系を赤線で示すと次のようになる: 説明図 酵素 阻害様式と反応速度.png

拮抗阻害の場合は Vmax は移動せず、Km が移動する。一方、非拮抗阻害の場合は Km は移動せず Vmax が移動する。混合型阻害の場合は図に示さないが両方の寄与が見られる。

多くの場合、阻害剤が基質に類似している場合は拮抗阻害を示す。またアロステリック阻害は拮抗的ではない阻害に該当する。それぞれの阻害様式の場合の定式化は記事ミカエリス・メンテン式に詳しい。




  1. ^ 一島英治 『酵素の化学』 朝倉書店、1995年。ISBN 4-254-14555-1
  2. ^ 『新生化学ガイドブック』 南江堂、1969年、89頁。
  3. ^ 代謝調節 『理化学辞典』 第5版、岩波書店。







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