酵素反応の定式化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/26 06:39 UTC 版)
1913年L・ミカエリスとM・メンテンは酵素によるショ糖の加水分解反応を測定し、「鍵と鍵穴」モデルと実験結果から酵素基質複合体モデルを導き出し、酵素反応を定式化した。このモデルによると、酵素を用いた系では以下の式で反応が進行する。 酵素 (E) + 基質 (S) ⇄ {\displaystyle \rightleftarrows } 酵素基質複合体 (ES) → 酵素 (E) + 生産物 (P) すなわち、酵素反応は、酵素と基質が一時的に結びついて酵素基質複合体を形成する第1の過程と、酵素基質複合体が酵素と生産物とに分離する第2の過程とに分けられる。 この理論から導かれるミカエリス・メンテン式によって、酵素反応の反応速度が求められる。ミカエリスとメンテンによる最初の理論は E + S と ES との間の化学平衡を仮定しており、ゆっくりと生成物へと反応が進行する場合の近似だったが、のちにブリッグスとホールデンがより一般的な定常条件を仮定し、その場合でも同様の式が成り立つことを示した。 酵素と基質が酵素基質複合体を形成する過程(上記の式の第1の過程)は、可逆過程として扱うことができる。この反応が定常状態である時の平衡定数はミカエリス・メンテン定数と呼ばれる酵素反応の重要なパラメータで、 Km と表記される。この定数は酵素と基質の親和性を表すパラメータであり、以下の性質を持つ: Km値が低いと酵素と基質の親和性は高く、素早く複合体形成するが生成反応の進行は遅い。 Km値が高いと酵素と基質の親和性は低く、ゆっくりと複合体形成するが生成反応の進行は素早い。 なお、Km の実測値は、酵素反応の反応速度が最大速度Vmaxの2分の1となるときの基質濃度と同じ値になる。 また、Vmax と関連した分子活性 kcat という値が存在する。これはタンパク質1分子あたり、1秒間に何個の基質を触媒するか、と言うパラメータである。式は以下のように表される。 kcat = 基質分子濃度 (M)/酵素分子濃度 (M) × 秒 ここで右辺は分子と分母に濃度の単位を持つのでこれを約すと、kcat は s−1 という単位で現される。例を挙げれば、酵素1分子あたり1秒間に100個の基質分子を触媒すれば 100 s−1 となる。炭酸脱水酵素には極めて活性の高いものがあるが、この酵素は1秒当たり百万個の二酸化炭素を炭酸イオンに変化させる (kcat = 106 s−1)。
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