酵素反応の調節機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/26 06:39 UTC 版)
生体が酵素活性の大小を制御するには、酵素の量を制御する場合と、酵素の性質を変化させる場合とがある。それらは次のように分類される: 酵素タンパク質の合成量制御による酵素量の増大 酵素タンパク質が他の生体分子と可逆的に作用することによる酵素活性の変化 酵素タンパク質が修飾されることによる酵素活性の変化 1 の調整は遺伝子の発現量の転写調節により実現する(詳しくはオペロンおよびラクトースオペロンを参照。ただし原核生物のみ)。例えば、細胞内のコレステロール量が減少すると、コレステロール代謝の律速段階であるHMG-CoAリダクターゼが遺伝子より翻訳生産され、コレステロールの生産量を増大させる(詳しくは記事 コレステロール#調節を参照のこと)。ただし、一度生産された酵素がタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により分解消失するまでには一定の寿命期間があることと、遺伝子からタンパク質が生産されるにはある程度時間が必要であることから、この調節には時間がかかる。 2 や 3 については酵素の質的な変化であり、1 の転写制御より素早い応答を示す。 2 や 3 の調節の例として、フィードバック阻害が挙げられる。一般に触媒反応の反応速度は基質濃度と生成物濃度により影響を受けるが、酵素反応の場合、ある複数の段階からなる代謝経路において、酵素の直接の基質あるいは生成物以外の代謝生成物が酵素の反応速度を制御する場面が良く見られる。特に、代謝生成物が過剰になったときに、生成物が何段階か上流過程の酵素反応を阻害することで産生を抑制する調節過程を、フィードバック阻害と呼ぶ。アロステリック効果などフィードバック阻害がかかる場合、生産物が過剰になると酵素活性が低減し、生産物が減ると酵素活性は復元する。 あるいは、細胞内キナーゼで酵素タンパク質がリン酸化されて酵素活性が発現する場合は、リン酸化された酵素が分解消失したり、他の酵素によりリン酸基の修飾が除去されるまでは酵素活性は維持される。また、消化酵素のトリプシンは、トリプシノーゲンとして膵臓から分泌されたあと、十二指腸表面に存在する酵素エンテロペプチダーゼ (EC 3.4.21.9) によりペプチド鎖の Lys6-Ile7 間を分解切断されてトリプシンとなり活性を発現する。また、熱ショックタンパク質を代表とする分子シャペロンは酵素の高次構造を変化させることで酵素を不活性型から活性型へと変化させる。
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