逮捕 逮捕の概要

逮捕

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/27 15:51 UTC 版)

コペンハーゲンにおける逮捕の例
フランスにおける逮捕
アメリカの警察による逮捕の例

逮捕の意味は各国での刑事手続の制度により大きく異なる。英米法における逮捕は裁判官に引致するための制度であり、日本法では勾留請求は逮捕とは異なる新たな処分とされているから、英米法の逮捕と日本法の逮捕とは全く制度を異にする[1]。日本法における逮捕は捜査官のいる場所への引致である[2]

日本法

逮捕は、捜査機関または私人被疑者逃亡及び罪証隠滅を防止するため強制的に身柄を拘束する行為である。なお、検挙は捜査機関が被疑者を特定し、捜査手続を行うことである。広義には、書類送検または微罪処分を行った場合も含む[3]

現行法上、逮捕による身柄の拘束時間は原則として警察で身柄拘束時から48時間・検察で身柄の受け取りから24時間、または身柄拘束時から合計72時間(検察官による逮捕の場合は身柄拘束時から48時間)である。

諸原則

逮捕の諸原則として逮捕前置主義・事件単位の原則・逮捕勾留一回性の原則がある。

種類

現行法上、逮捕には通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類がある。

通常逮捕

通常逮捕とは、事前に裁判官から発付された令状(逮捕状)に基づいて、被疑者を逮捕することである(憲法33条刑訴法199条1項)。これが逮捕の原則的な法的形態となる。

逮捕状の請求権者は、検察官または司法警察員[注釈 1]である(刑訴法199条2項)。逮捕状の請求があったときは、裁判官が逮捕の理由(「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」。嫌疑の相当性)と逮捕の必要を審査して、逮捕状を発付するか(同条、刑訴規143条)、請求を却下するか判断する。ただし、法定刑の軽微な事件[注釈 2]については、被疑者が住居不定の場合または正当な理由がなく任意出頭の求めに応じない場合に限る(刑訴法199条1項)。裁判官は、必要であれば、逮捕状の請求をした者の出頭を求めてその陳述を聴き、またはその者に対し書類その他の物の提示を求めることができる(刑訴規143条の2)。

逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない(刑訴法201条1項)。逮捕状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し被疑事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる(同条2項・73条3項。緊急執行)。ただし、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない(同条2項・73条3項ただし書)。

明文規定はないものの、逮捕に際しては社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度で実力行使が認められると解されている[4]。反抗を制圧し、手錠をかけ、腰縄をつけることなどがこれに当たる。このように、実力行使は警察比例の原則に基づいて認められるため、逮捕されたからといって必ずしも手錠がかけられるわけではない。一般には逮捕状を呈示し被疑事実と執行時刻を確認・読み上げて連行する形が執られる。

緊急逮捕

検察官、検察事務官または司法警察職員は、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる(刑事訴訟法210条1項)。これを緊急逮捕という。

緊急逮捕した場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(刑事訴訟法210条1項)。

現行犯逮捕

現に罪を行い、または現に罪を行い終った者を現行犯人という(刑事訴訟法212条1項)。また、刑事訴訟法に定められた罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる者も現行犯人とみなされる(準現行犯、刑事訴訟法212条2項)。現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(刑事訴訟法213条)。

検察官検察事務官および司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したとき(これを実務上、私人逮捕という)は、直ちにこれを地方検察庁もしくは区検察庁の検察官または司法警察職員に引き渡さなければならない(刑事訴訟法214条)。

EU法

欧州逮捕令状等

欧州連合加盟国は各国が司法制度を運用しており、多数の異なる司法制度が並行して存在している[5]

しかし、国際犯罪等に対応するため刑事分野での実質的協力として欧州逮捕状(European arrest warrant)の制度が設けられており、承認に膨大な時間がかかっていた犯罪人引き渡し手続きに代わる制度として2004年1月に導入された[5]。また、刑事分野での実質的協力として、2003年、ハーグオランダ)に各加盟国の捜査・検察当局が犯罪捜査で協働できるようにするためユーロジャスト(Eurojust)が設立された[5]。なお、ユーロジャストを基盤に、EUの経済利益を損なう犯罪を捜査し犯罪者を起訴する役割を担う欧州検察庁が設立された[5]

EU指令

2012年のEU指令(指令2012/13/EU)は、被疑者・被告人の権利及び欧州逮捕令状の対象とされる者の権利について規定する[6]。2010年7月20日に欧州委員会によって「刑事手続きにおける情報に対する権利に関する指令提案」として提出され、2012年5月22日に欧州議会及び理事会によって「指令2012/13/EU」として採択され、同年6月1日に公布された[6]

本指令は全14条で第4条で「逮捕に関する権利の通知状」、第5条で「欧州逮捕令状手続きにおける権利の通知状」について規定する[6]


注釈

  1. ^ 警察官たる司法警察員については、国家公安委員会または都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。
  2. ^ 30万円(刑法暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金拘留又は科料に当たる罪に関する被疑事件。

出典

  1. ^ a b 平野龍一 1958, p. 99.
  2. ^ 河上和雄 & 渡辺咲子 2012, p. 190.
  3. ^ 検挙”. コトバンク. 2019年6月13日閲覧。
  4. ^ 最高裁判所第一小法廷判決 1975年4月3日 、昭和48(あ)722、『傷害被告事件』。
  5. ^ a b c d パスカル・フォンテーヌ. “EUを知るための12章”. 早稲田大学. 2020年2月14日閲覧。
  6. ^ a b c 浦川紘子「EU「自由・安全・司法の地域」における刑事司法協力関連立法の制度的側面 : 被疑者・被告人の権利に関する2つの指令を手掛かりとして」『立命館国際地域研究』第38号、立命館大学国際地域研究所、2013年10月、37-52頁、ISSN 0917-2971NAID 1100096324742020年8月12日閲覧 
  7. ^ a b c d 日本弁護士連合会刑事弁護センター 1998, p. 16「アメリカの刑事手続概説」茅沼英幸執筆部分
  8. ^ 法務省. “諸外国の刑事司法制度(概要)”. 2016年9月17日閲覧。
  9. ^ 島伸一. “日本の刑事手続とアメリカ合衆国の重罪事件に関する刑事手続(軍事裁判を含む)の比較・対照及び日米地位協定17条5項(c)のいわゆる「公訴提起前の被疑者の身柄引渡し」をめぐる問題について”. 神奈川県. 2016年9月17日閲覧。[リンク切れ]
  10. ^ a b 日本弁護士連合会刑事弁護センター 1998, p. 17「アメリカの刑事手続概説」茅沼英幸執筆部分
  11. ^ 「House arrest」 - ブリタニカ
  12. ^ 法制審議会、刑事法(逃亡防止関係)部会「第8回会議 議事録」、2020年12月23日。被害者接触防止のためのGPS装置利用も検討の対象となっている。
  13. ^ ウィキソース国際刑事裁判所に関するローマ規程」(日本語版)。
  14. ^ a b c 村瀬信也 & 洪恵子 2014, p. 236「ICCの刑事手続の特質」高山佳奈子執筆部分
  15. ^ 村瀬信也 & 洪恵子 2014, p. 237「ICCの刑事手続の特質」高山佳奈子執筆部分
  16. ^ 「逮捕・勾留」をもって賃貸借契約を解除できるかに関するQ&A”. 公益社団法人東京都宅地建物取引業協会. 2021年6月13日閲覧。
  17. ^ 在日米国大使館・領事館 ビザ免除プログラム有罪判決の有無にかかわらず逮捕歴のある方、犯罪歴(…)がある方…に該当する旅行者は、ビザを取得しなければなりません。ビザを持たずに入国しようとする場合は入国を拒否されることがあります。」


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