語順 語順の類型論

語順

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/20 14:50 UTC 版)

語順の類型論

言語類型論では複数の語順が可能な場合には、そのうちの一つが基本語順 (basic word order)[1]または支配的語順 (dominant [word] order)[1]とされる。

ラテン語フィンランド語は定型的な語順を持たない。しかし傾向として、前者が SOV 型、後者が SVO 型と見なせる。このように柔軟な語順で使用される言語は、文中における名詞の役割を表示するを有するのが普通である。同様に語順が比較的自由な日本語では格助詞がこの役割を担っている。またハンガリー語チェコ語のように、語順が主題焦点など情報構造を示す手段となる言語もある。

同じくらいよく使われる語順が二つ以上あるために基本語順を一つに決められない言語にも、いくつかのタイプがある。オーストラリアのヌングブユ語[3]のようにほとんど全ての語順が同じくらいよく使われる言語もあれば、ドイツ語オランダ語で主節ではSVOが優勢だが従属節ではSOVとなるように、統語的環境によって基本語順が変わる言語もある[4]

主語・目的語・動詞の語順

他動詞節に現れる主語[5] (S: subject)・目的語 (O: object)・動詞 (V: verb) の3つの要素の語順を考えると3!=6通りの可能性がある。他動詞の平叙文主語目的語の両方が代名詞でない完全な名詞句の場合では、6通りの語順全てが自然言語の基本語順として確認されているが、目的語が最初に来るOSV型OVS型は珍しい[6]

Dryer (2011a) は世界1377の言語を調べ、可能な語順が複数ある場合には使用頻度によって基本語順を決めた。この調査によれば、SOV型が一番多く565言語、次いでSVO型が488言語であった。他の4つのタイプはいずれも100言語以下で、VSO型が95言語、VOS型が25言語、OVS型が11言語、OSV型が4言語であった。同じくらいよく使われる語順が二つ以上ある言語は189言語あり、これらは頻度によって基本語順を決定できないため Dryer は分類から排除した。

主語、目的語、動詞の語順の各類型にあてはまる言語の数
類型 言語の数
主語・目的語・動詞 (SOV) 565
主語・動詞・目的語 (SVO) 488
動詞・主語・目的語 (VSO) 95
動詞・目的語・主語 (VOS) 25
目的語・動詞・主語 (OVS) 11
目的語・主語・動詞 (OSV) 4
基本語順なし 189
計: 1377

SOV型は世界中に分布しているが、中国・東南アジア・中東以外のアジアや、ニューギニアで特に支配的である。SVO型はサハラ砂漠以南のアフリカや、中国から東南アジア・太平洋西部にかけての地域、ヨーロッパに広く見られる[6][7]

    ヒシカリヤナ語
toto  y-ahosɨ-ye  kamara 
男  3:3-捕まえる-DIST.PST  ジャガー 
「ジャガーが男を捕まえた」 [8]
    ナドゥブ語英語版
awad  kalapéé  hapʉ́h 
ジャガー  子供  見る.IND 
「子供がジャガーを見る」 [9]

句レベルの語順

主語・目的語・動詞のようなレベルの要素だけでなく、のレベルにも基本的な語順がある。

取り上げられることが多いのは以下のような要素の語順である。

    英語
I sent a letter  to  my boss. 
   前置詞  名詞句 
「私は上司にEメールを送った」
    マレー語
rumah  besar 
家  大きい 
「大きい家」 [10]
    クロンゴ語英語版
níimò  má-Kùkkú 
母  属格-クック 
「クック(人名)の母」 [11]
    ルガンダ語
ekitabo  [kye  n-a-gula]関係節  kirungi 
本  関係節  私-過去時制-買う  良い 
「私が買った本は良い」

それぞれの例の和訳から分かるように、日本語は、《名詞句 - 後置詞》、《形容詞 - 名詞》、《所有者 - 名詞》、《関係節 - 名詞》の語順となる。一方、英語は《前置詞 - 名詞句》、《形容詞 - 名詞》(前置修飾)、《名詞 - 関係節》(後置修飾)の語順であり、所有者に関しては所有者が代名詞または所有格(-'s)で表される場合は《所有者 - 名詞》、若しくは《名詞 - of(前置詞) - 所有者》となる。


  1. ^ a b c 用語集
  2. ^ a b 大辞典 (p. 567)
  3. ^ Heath, Jeffrey. A Functional Grammar of Nunggubuyu. Humanities Press / Australian Institute of Aboriginal Studies. 1984: 507-513
  4. ^ ドイツ語およびオランダ語は、基底にただ一つの語順を仮定する生成文法の分析では SOV型に分類される。V2語順も参照。
  5. ^ ここでは、主語目的語は厳密な文法用語ではなく、他動詞の二つののうち行為者を表すもの(=主語)と行為の対象を表すもの(=目的語)という意味で用いられている (Dryer 2011a)。
  6. ^ a b Dryer 2011a
  7. ^ Dryer (2011a) による言語地図
  8. ^ Derbyshire, Desmond C. Hixkaryana. North-Holland. 1979: 87
  9. ^ Weir, E. M. Helen. “Nadëb”. Kahrel, Peter and van den Berg, René (eds.) Typological Studies in Negation. John Benjamins. 1994: 309
  10. ^ Song 2011
  11. ^ Dryer 2005a
  12. ^ Gengo ruikei ron nyūmon : Gengo no fuhensei to tayōsei. Whaley, Lindsay J., Ōhori, Toshio, 1960-, Koga, Hiroaki., Yamaizumi, Minoru., 大堀, 俊夫, 1960-, 古賀, 裕章. Tōkyō: Iwanami Shoten. (2006). ISBN 4000227602. OCLC 676495476. https://www.worldcat.org/oclc/676495476 


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