標準状態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/12 01:35 UTC 版)
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一般的には気体の標準状態のことを指すことが多く、圧力と温度を指定することで示される。科学の分野により、また学会、国際規格団体によって、その定義は様々であり混乱が見られる。このため、日本熱測定学会は統一した値として、地球の大気の標準的な圧力である標準大気圧(1 atm = 101325 Pa)を用いるべきであると主張し啓蒙活動を展開している[1]。
標準圧力
指定される圧力は、標準圧力(英: standard pressure)と呼ばれる。しばしば標準圧力であることを示すために記号 ° を付けて p° と書かれる。どのような圧力を p° に指定してもよいので、どのような圧力を p° に指定したのかは明示されなければならない[2]。
標準圧力の設定として主なものが二種類ある。一つは、歴史的に用いられてきた、標準大気圧(英: standard atmosphere)
であり、もう一つは1982年にIUPACが推奨した
である。105 Paは、標準状態圧力(英: standard-state pressure, SSP)と呼ばれる[3][2]。ただし、1982年以前は標準大気圧 101 325 Pa がSSPであった。SSPとは、後述する「物質の標準状態」を規定する際に用いられる圧力であって、他の標準圧力の使用を妨げるものではない[4]。例えばデータベースに収録されている物質の沸点は大抵の場合、標準大気圧下の沸点(normal boiling point)である。
1960年の国際単位系(SI)の採択を経て、IUPACでも1969年にGreen bookを出版してSIへの転換とした[5]。その後1970年代のGreen book改訂の際に標準気圧が非SIになるとして、SSPの慣習的な1 atmから105 Paへの変更が主張され、IUPACの推奨はこの主張に沿って行われた。20年以上(2004年当時)を経過してもIUPACの推奨はしばしば無視されており、化学熱力学のデータベースに二種類の設定があることで混乱が見られる[5][6]。種々の物理定数の推奨値を発表しているCODATAはIUPACの推奨に沿って後者をSSPとしているが[3]、標準圧力の設定に依存する理想気体のモル体積やサッカー・テトロード定数などは、105 Pa および 101 325 Pa の両方の標準圧力に基づく値で発表している。
IUPACによるSSPの変更の推奨は単位の変更に伴うものとして行われたが、標準状態とは(仮想的な)測定条件であり、基準とする量の選び方であって、単位の選び方ではない。物理学の理論は単位の選び方には依らないが、例えば標準生成エンタルピーは標準状態の設定に依存してその量が変化する(単位の変更による数値の変化ではない)。そもそも、105 PaはSIに沿った一貫性のある単位ではないことに注意。
温度と圧力の標準条件
基準とする温度には 25 °C か 0 °C が選ばれることが多い。呼び名のある温度と圧力の標準条件としては、SATPとSTPとNTPが挙げられる。
- SATP
- 基準の温度を25 °C(298.15 K)、標準圧力を 105 Pa とするものがSATP(標準環境温度と圧力、英: standard ambient temperature and pressure)と定義される[7]。
- STP(1990年頃以降)
- 基準の温度を0 °C(273.15 K)、標準圧力を 105 Pa とするものがSTP(標準温度と圧力、英: standard temperature and pressure)と定義される[8]。1990年頃[注 1]より前のSTPはNTPと同じである。
- NTP
- 基準の温度を0 °C(273.15 K)、標準圧力を 101 325 Pa とするものがNTP(標準温度と圧力、英: normal temperature and pressure)と定義される[9][注 2]。NTPは1990年頃より前のSTPと同じである。
気体の標準状態としてどの条件が使われるかは、地域や分野により異なる。『アトキンス物理化学要論』によれば2016年現在、主に 25 °C、105 Pa のSATPが使われるが、0 °C、1 atm のSTP[注 3]は、今でも使われている[7]。一方『ボール物理化学』によれば、0 °C、105 Pa のSTPが最もふつうの一組である[10]。日本では、単に標準状態といえば 0 °C、1 atm のNTPを指すことが多い[11]。
注釈
出典
- ^ 日本熱測定学会 ICCT2008で発表したポスター
- ^ a b 『グリーンブック』 p. 74.
- ^ a b CODATA Value
- ^ Cox 1982, p. 1247.
- ^ a b 長野 (2004)
- ^ 長野 “標準状態圧力の成立過程”
- ^ a b 『アトキンス物理化学要論』 p. 21.
- ^ a b Calvert 1990, pp. 2216, 2217.
- ^ JIS K 0211:2013 p. 5.
- ^ 『ボール物理化学』 p. 8.
- ^ コトバンク『標準状態』
- ^ 『グリーンブック』 pp. 73-74.
- ^ a b バーロー『物理化学』 p. 128.
- ^ バーロー『物理化学』 表B・3.
- ^ a b NIST Chemistry WebBook
- ^ 『ルイス=ランドル熱力学』 p. 554.
- ^ 『化学便覧』 表10.118.
- ^ 『アトキンス物理化学小辞典』 pp. 269-270.
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