ケプラー289とは? わかりやすく解説

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ケプラー289

(PH3 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/11/08 05:47 UTC 版)

ケプラー289
Kepler-289
星座 はくちょう座
見かけの等級 (mv) 14.14[1](vバンド)
変光星型 惑星のトランジット
分類 恒星主系列星
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  19h 49m 51.6736s[2]
赤緯 (Dec, δ) +42° 52′ 58.269″[2]
視線速度 (Rv) −18.21±5.60[2]
固有運動 (μ) 赤経: 4.815(14)ミリ秒/[2]
赤緯: −0.190(17) ミリ秒/年[2]
年周視差 (π) 1.3763 ± 0.0129ミリ秒[2]
(誤差0.9%)
距離 2370 ± 20 光年[注 1]
(727 ± 7 パーセク[注 1]
軌道要素と性質
惑星の数 3
物理的性質
半径 1.00±0.02 R[3]
質量 1.08±0.02 M[3]
表面重力 (logg) 4.47±0.01[3]
スペクトル分類 G2[4]
光度 1.15±0.06[3]
表面温度 5990±38 K[3]
金属量[Fe/H] 0.05±0.04[3]
年齢 6.5±4.4 億年[3]
他のカタログでの名称
PH3 2MASS=J19495168+4252582、KOI-1353KIC 7303287TIC 273234825WISE J194951.68+425258.2[1]
Template (ノート 解説) ■Project

ケプラー289:Kepler-289) またはPH3は、太陽よりわずかに質量の大きな回転変光星である、スペクトル分類G2型に分類される、若い恒星である。地球からはくちょう座方向に2370光年離れた位置にある。市民科学プロジェクトで市民ボランティアによって発見されたものも含む、複数の太陽系外惑星を有することが分かっている[1]

惑星系

現在確認されている時点で、ケプラー289にはトランジットを起こす3個の惑星が、NASAのケプラー宇宙望遠鏡による観測から発見されている。 2014年に、まずケプラーがそれまで発見していた惑星候補のうち数百個について統計的検証を行った研究の成果として、2個の惑星ケプラー289bとケプラー289cの発見が公表された[5]。 その後同年に、別の研究から3番目の惑星ケプラー289dの発見も公表された。これは市民科学プロジェクトのプラネットハンターズで発見された、本プロジェクトから通算3番目の惑星であるため、このプロジェクト(Planet Hunters)で発見された惑星の通し番号による別名としてケプラー289をPH3と呼び、それそれの惑星をPH3b、PH3c、PH3dと呼ぶ場合もある[3]

この惑星系についてのモデルは様々な研究から複数提示されている。ケプラー289dの発見論文では、この惑星の公転周期は66日であり、330日周期で見えている信号は真の周期の一部(ちょうど5倍にあたる)を捉えているエイリアス信号であるとしている[3]

2023年に報告された追観測による研究でも、ケプラー289dの公転周期は66日であると支持している[6]。この研究が行われるまで、この惑星系の観測はケプラーのアーカイブデータに含まれる約4年間のデータしか存在しなかったが、この研究ではパロマー天文台ヘール望遠鏡を用いて、ピントをわざと外してより大きな恒星像を得ることで地上観測ながら宇宙望遠鏡に匹敵する精度で、2019年2021年に起こったケプラー289cのトランジットを観測した。これにより観測期間をさらに7.5年延長することで、TTVと呼ばれる手法でのトランジット時刻のわずかな変動から他の2個の惑星の質量について重力摂動から求める解析の精度が向上した[6]。また、この恒星は恒星自体が恒星活動によって3%程度の周期変光を起こしており、その影響もより改良された解析手法で除去した[6]

質量が正確に求められたため、トランジット観測で元々分かっていた半径と組み合わせて密度を算出でき、ケプラー289bとdは外層大気におそらく水素を有する準海王星型惑星(サブネプチューン)、ケプラー289cは30.5±6.9 M🜨分の金属元素を有する低温の木星型惑星であると推測している[6]

しかし、2025年の研究論文では、論文著者らが開発したPyDynamicaLCと呼ばれる新しい解析用モデルを用いて、改めて330日周期の惑星の存在を報告したうえ、66日周期の信号については「もはやデータ中に存在しないと思われる」と報告している[7]。 そのためNASAが運用する太陽系外惑星のデータベースであるNASA Exoplanet Archiveでは、66日周期と330日周期の惑星を両方リストアップし、後者についてはケプラー289eという4番目の惑星としての名前を割り振っている[1]。ただし、現在までにこの惑星系に4個以上の惑星が存在する、つまり両方の惑星が共存していると主張している研究はあくまでも存在しない。

市民科学プロジェクトによる発見

プラネットハンターズはクラウドソーシングによる市民科学プロジェクトで、ケプラー宇宙望遠鏡の膨大な観測データから、自動アルゴリズムが見逃したトランジットの信号を、大勢の市民ボランティアの目で探しなおすことを目的としている[8]

参加していた市民ボランティアによって、ケプラー289におよそ66日周期のトランジット信号が発見されたが、その周期は他の多くの惑星のように正確に決まったタイミングで起こらず、約66日間隔で起こるトランジットの正確な観測時刻は、トランジットが10回観測された時点で、ぴったりと決まった周期から予想される時刻からは10時間半もずれていた[9]。 このずれは、トランジットタイミング変動(TTV)と呼ばれる、その惑星系に存在する他の惑星の重力の効果(摂動)を受けて惑星の軌道が変動することにより生じ、TTVが観測されたことで逆にTTVを引き起こすケプラー289bとdの重力の大きさ、つまりこの2惑星の質量を、ケプラー289cの質量とともに算出することができた[10]

そして研究者による自動アルゴリズムを用いた捜索では、恒星の光度曲線中の周期的なトランジット信号を閾値として捜索を行うため、大きなTTVを起こす惑星系はこの捜索では見逃されることが指摘されており[3]、市民ボランティアによる目視捜索はそのバイアスを補う点で大きな貢献となっている[10]

また、公転周期が内側から1.91倍ずつ長くなっている特性があり、これが偶然によるものか、惑星形成過程に何か要因があるのか分かっていない[11]

ケプラー289の惑星[6]
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
b 3.70+3.79
−1.96
 M
0.21±0.01[3] 34.5383±0.0006 88.98+0.06
−0.07
°
2.49±0.07 R
d 5.33+0.43
−0.42
 M
0.33±0.02[3] 66.0282+0.0044
−0.0039
89.31±0.04° 3.03±0.08 R
c 0.49±0.02 MJ 0.51±0.03[3] 125.8723+0.0035
−0.0021
89.78±0.04° 1.002±0.019 RJ

脚注

注釈

  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算

出典

  1. ^ a b c d Kepler-289 | NASA Exoplanet Archive”. exoplanetarchive.ipac.caltech.edu. 2023年9月10日閲覧。
  2. ^ a b c d e f Vallenari, A. et al. (2022). “Gaia Data Release 3. Summary of the content and survey properties”. Astronomy & Astrophysics. arXiv:2208.00211. doi:10.1051/0004-6361/202243940  Gaia DR3 record for this source at VizieR.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m Schmitt, Joseph R.; Agol, Eric; Deck, Katherine M.; Rogers, Leslie A.; Gazak, J. Zachary; Fischer, Debra A.; Wang, Ji; Holman, Matthew J. et al. (November 2014). “Planet Hunters. VII. Discovery of a New Low-mass, Low-density Planet (PH3c) Orbiting Kepler-289 with Mass Measurements of Two Additional Planets (PH3b and d)” (英語). アストロフィジカルジャーナル 795 (2): 167. arXiv:1410.8114. Bibcode2014ApJ...795..167S. doi:10.1088/0004-637X/795/2/167. hdl:1721.1/93116. ISSN 0004-637X. 
  4. ^ Su, Tianhao; Zhang, Li-yun (2022-08). “Magnetic Activity and Physical Parameters of Exoplanet Host Stars Based on LAMOST DR7, TESS, Kepler, and K2 Surveys”. The Astrophysical Journal Supplement Series 261 (2): 26. Bibcode2022ApJS..261...26S. doi:10.3847/1538-4365/ac7151. 
  5. ^ Rowe, Jason F.; Bryson, Stephen T. (2014-03). “Validation of Kepler's Multiple Planet Candidates. III. Light Curve Analysis and Announcement of Hundreds of New Multi-planet Systems”. アストロフィジカルジャーナル 784 (1): 45. arXiv:1402.6534. Bibcode2014ApJ...784...45R. doi:10.1088/0004-637X/784/1/45. 
  6. ^ a b c d e Greklek-McKeon, Michael; Knutson, Heather A. (2023-02). “Constraining the Densities of the Three Kepler-289 Planets with Transit Timing Variations”. アストロノミカルジャーナル 165 (2): 48. arXiv:2208.00022. Bibcode2023AJ....165...48G. doi:10.3847/1538-3881/ac8553. 
  7. ^ Ofir, Aviv; Yoffe, Gideon; Aharonson, Oded (2025-02). “Planetary Mass Determinations from a Simplified Photodynamical Model—Application to the Complete Kepler Dataset”. アストロノミカルジャーナル 169 (2): 90. arXiv:2410.11401. Bibcode2025AJ....169...90O. doi:10.3847/1538-3881/ad91a7. 
  8. ^ Planet Hunters - Searching For Planets With Hundreds of Thousands of Eyes”. オハイオ州立大学. 2024年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月1日閲覧。
  9. ^ Yale finds a low-density planet that won’t stick to a schedule”. イェール大学 (2014年10月29日). 2025年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月1日閲覧。
  10. ^ a b A New Paper and New Planet Discoveries” (2014年10月30日). 2025年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月1日閲覧。
  11. ^ 有志プロジェクトの目で見つけた、1年が不規則な系外惑星”. アストロアーツ (2014年11月11日). 2025年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年11月1日閲覧。

関連項目




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