ITゼネコン登場の背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/29 06:50 UTC 版)
「ITゼネコン」の記事における「ITゼネコン登場の背景」の解説
通常、大手企業や官公庁の仕事を受注するには経営規模が大きい方が有利である。中小のSIerが直接受注したとしても、開発リソース等の面で要求に応えきれない。また万が一システム開発に失敗し多額の損害賠償を求められた場合に、資金的なリスクを負担しきれない。例えばスルガ銀行が日本IBMに対し、システム開発失敗に伴う損害賠償として111億7000万円の支払を求める訴訟を起こした。 このような問題に対しジョイントベンチャーなどで対応できる。マルチベンダー開発ともいわれるが、 ベンダー同士による連携コストが高い 機能で切り分けても共通処理・非機能要件・想定外な部分であいまいになりマネジメントしづらい 問題発生時に責任の所在が不明になりやすい など問題もあり発注者の負担も大きくなる。結果、システム構築でマネジメント力のない発注者は大規模開発ができる大手ITベンダーに発注する流れとなっている。 技術的な問題として、各社独自の設計様式がある。メインフレームの時代、大手コンピュータメーカーの提供する大型コンピュータの仕様は非公開であり、他のメーカーは保守や改修に関わりづらかった。そのため、1つのSIerが受注した後は、同じSIerに対して費用を払い続けるという構造が成立していた。その後、オープンシステムが普及し、異なるSIerがシステムの保守・運用に途中から参入することが容易になると期待された。しかしオープンシステムでも既に完成したプログラムの内部仕様を開発元以外のSIerが把握することは難しかった。技術的には、昔から出入りしていた企業の既得権益は守られやすいのである(ベンダロックイン)。 最大の要因は、政府調達制度が単年度会計原則であるため、「初年度安値落札・次年度以降随意契約ビジネスモデル」が一般的となり、次年度以降の高額な随意契約を暗黙の前提として、初年度は極端な安値落札を行うというビジネスモデルが慣習化していることである。1円入札が行われる場合すらある。このようなルールの下では、役所の仕組みに精通し、初年度の赤字に耐える経営体力のある大企業が圧倒的に有利で、中小企業の新規参入は難しい。 天下りの問題がある。ITゼネコンは官僚の天下りを受け入れたことで、官公庁との太いパイプを維持してきた。例えばNTTデータやその関連会社は、厚生労働省や社会保険庁の官僚を受け入れた一方で、契約見直しの最中であったこと等から正式な利用契約の締結まで至っておらず、年間1000億円、累計1兆円もの取引を行っていたことが、年金記録問題で明らかになった。天下りによる癒着で随意契約すら形骸化しており、天下りを受け入れていない中小のSIerの参入機会は皆無なのである。現在は各業者も見直しを行っており、天下りの受け入れは減っている。 このようにして、旧電電ファミリー企業のように昔から役所に出入りしていた大企業が利幅の大きな公共事業を押さえて、ITゼネコン化していった。
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