音の感知
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 03:06 UTC 版)
音は、主に外耳より空気の振動として外耳道を通って耳の中へ進入し、鼓膜により固体の振動へと変換され、それが中耳内の耳小骨を伝わり、内耳の蝸牛へと到達する。なお、蝸牛の中は液体で満たされているので、ここまでで、気体の振動、固体の振動、液体の振動と変化していることになる。ただし、自らが発した声の場合は、自らの骨などを伝わってゆく音、いわゆる骨導音も内耳の蝸牛へと到達しているように、音の伝達には別ルートも存在する。 いずれのルートから来た音による振動であっても、蝸牛に到達した振動は、蝸牛の中にある基底膜上の有毛細胞の毛を振動させる。この有毛細胞に伝わった振動は、有毛細胞の外にあるカリウムイオンが、有毛細胞の内側へと移動し、これによって電位の変化が発生する(カリウムイオンは正の電荷を持つため)。これが有毛細胞を興奮させ、その興奮は電気信号となって大脳の聴覚中枢へと達し、音として知覚される。なお、左右に2つの耳を持ち、この信号を脳で処理することによって、音源の定位なども知覚している。また、入力された音の強さに応じて感度を変えるといったこともしている。このように、音を知覚するには脳の活動が欠かせないが、内耳で有毛細胞が音によって生じた振動を電気信号に変えてくれなければ、脳の側ではどうすることもできない。ちなみに、音を電気信号に変換している有毛細胞が活動しているかどうかは、外耳道に高性能のマイクロフォンを近づけた時、微弱な音が耳の中から出ていれば、活動していることを確認することができるので、乳児の聴覚が正常かどうかの検査に利用されることがある。 音の感知に関しては、内耳以外に、外耳や中耳にも役割がある。まず、外耳の耳介は集音器としても役立っている。これは手を耳介の後ろにあてがってみれば、音の聞こえが良くなることから、その効果を簡単に確かめることができる。他にも、外耳道は閉管と考えることができ、これが共鳴器となり、共鳴する周波数付近の感度を上げている。 また、中耳は、内耳の蝸牛を満たしている液体に、効率的に振動を伝えるために大きな役割を果たしている。この役割を担っているのは、主に鼓膜と耳小骨である。鼓室形成術のような手術が考案されたのも、たとえ内耳の機能が保たれていたとしても、鼓膜と耳小骨とが正常に機能していないと音の聞こえが悪くなってしまうからである。中耳は、内耳のように液体で満たされているのではなく、空気で満たされているので、耳小骨は振動しやすくなっており、これが振動を伝える効率を上げている。また、鼓膜も中耳側に凹んだ形状を持っているなど、空気の振動をより効率良く受け取れるようになっている。加齢と共に鼓膜や耳小骨が振動しにくくなることは老人性難聴の一因である。なお、中耳は耳管で咽頭とつながっており、外耳と中耳の間に気圧の差が生じた時に、この耳管を用いて気圧差を解消することで鼓膜の振動が妨げられないようにしている。 ヒトの耳は一般的に20ヘルツから20キロヘルツの音域を聴く事が可能で、これは可聴周波数と呼ばれる。聴覚には耳の働きと同様に中枢神経の聴覚野が充分に機能していることが必要だが、ヒトの聴覚障害(音に対する極端な鈍感さ)は神経や聴覚野よりも内耳に問題を抱えている場合が最も多い。
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