鉛の散弾から鉄の散弾へ移行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 07:37 UTC 版)
「散弾銃」の記事における「鉛の散弾から鉄の散弾へ移行」の解説
散弾の材質としては、比重が重く球形散弾への加工が容易な鉛が一般的であった。これらは「レッド(リードは発声間違い)ショット(lead shot)」と呼ばれる。 鉛は、水に容易に溶け重度の重金属汚染を引き起こし、また、強い金属毒があり重篤な中毒(鉛中毒)を引き起こす物質でもあった。狩猟時に使用された散弾を鳥が砂や小石にまじってついばみ、砂嚢内で微粒子化して消化器から吸収されることで、水鳥は鉛中毒に陥る。また、鉛中毒で死んだが獲物とされずに放置された個体・弱った個体が他の鳥獣に食べられることによって生物濃縮され、生態系上位者に向けて連鎖的に鉛中毒が拡大した。そのため、鉛の散弾から軟鉄製の散弾へ切り替える無鉛化が行われるようになった。鉄の散弾は「スチールショット」と呼ばれる。 デンマークでは、1985年に、ラムサール条約登録湿地での鉛散弾の使用が禁じられた。アメリカ合衆国では、1991年-1992年猟期から、水鳥とオオバンの狩猟について、全面的に鉛散弾の使用が禁止された。カナダでは、鉛被害が重い場所を指定し、1990年から鉛散弾の使用が禁止されている。日本国内でも鉛散弾による狩猟が禁じられている地区がある。 また、クレー射撃場でも、雨水などに溶出した鉛が検出されるなどして、問題化した。環境団体などの指摘により、公営及び私営ともにクレー射撃場が一時閉鎖ないしは今もなお閉鎖され続けている事例がある。北欧では既にクレー射撃公式競技でも軟鉄装弾が使用されているが、米国では薬剤散布による鉛毒の中和や特殊ネットによる鉛散弾の全回収を併用するなど、各国の動きにはそれぞれ差違が見られる。 軟鉄散弾は、鉛散弾と比べて「素材の比重が軽いため威力が落ちる」「硬いため銃身に与える衝撃が大きい(特にチョークの部分)」「高価」といった欠点があった。威力低下については使用散弾をやや大きくし、かつサイズが大きな実包を用いて弾数が減少しないようにすることで、対策とすることができる。銃身については、軟鉄散弾対応銃身を使用することで悪影響を避けることができる。しかしながら、旧来の鉛散弾用散弾銃では軟鉄散弾に切り替えた場合、鉛散弾を用いた場合と同様の威力は維持できない。そのため、狩猟用散弾銃には「鉛散弾時代のもの」と「軟鉄散弾が登場したあとのもの」との間で、多少の世代差が認められる。最近ではこうした鉛散弾時代のものにも鉛散弾と同じ感覚で使用できる非鉛性の散弾(タングステンやビスマスが用いられる)も登場してきた。 軟鉄散弾が広まることで、鉛散弾とは異なる新たな問題が起きることを指摘する意見もある。軟鉄散弾は通常、保存時の腐食を防ぐためにメッキが施されている物が多いが、猟場に放出され長期間放置されることで錆が発生し、流れのない溜め池などでは大量の軟鉄散弾による錆が浮くなどの問題が起きる可能性が指摘されている。
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