酵母など菌類におけるプリオン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:31 UTC 版)
「プリオン」の記事における「酵母など菌類におけるプリオン」の解説
1990年代初頭、リード・ウィックナーは、プリオンタンパク質をいわゆる出芽酵母 Saccharomyces cerevisiaeで発見した。その後、別のプリオンがPodospora anserinaと呼ばれる菌で発見された。これらのプリオンはPrPと似た動態を示すが、一般的に宿主に対しては非毒性的である。ホワイトヘッド研究所のスーザン・リンドキストのグループは、菌類のプリオンの一部は、いかなる病状も引き起こさず、むしろ有益な役割を果たしている可能性があると主張している。一方で、アメリカ国立衛生研究所 (NIH) の研究者グループは菌類のプリオンは病気の状態として考えられるべきであるとする強い主張を打ち出している。菌類のプリオンが病気なのか、それとも何らかの機能のために生まれてきた進化の産物なのか、この問題は未だ解決を見ていない。 2010年現在、7種類のプリオンタンパク質が出芽酵母で見つかっており(Sup35, Rnq1, Ure2, Swi1, Mca1, Mot3, Cyc8)、1種類のプリオンタンパク質がPodospora anserinaで見つかっている(HET-s)。 菌類のプリオン研究は、哺乳類プリオンのタンパク質単独仮説の強い支えとなる結果を与え続けてきた。その萌芽は、プリオン状態の細胞から抽出した精製タンパク質が、正常型のタンパク質をin vitroにおいて感染型のタンパク質に変換すること、またこの過程で、プリオン状態の特定の型に対応する情報が保存されることを示した研究であった。プリオンへの変換を促進するタンパク質内領域である「プリオン領域」にも光が当てられてきた。菌類のプリオンによって明らかになってきたプリオンの変換機構は、全てのプリオンに適用できる可能性があるが、哺乳類のプリオンが独立の機構で作動している可能性もある。 菌類におけるプリオンタンパク質自然宿主正常機能プリオン型プリオン表現型発見年Ure2p Saccharomyces cerevisiae 窒素異化代謝抑制因子 [URE3] 有利な窒素源存在下でのウレイドコハク酸の取り込み 1994 Sup35p Saccharomyces cerevisiae 翻訳終結因子 [PSI+] ナンセンス抑圧の発生率上昇 1994 HET-S Podospora anserina ヘテロカリオン不和合性の調節因子 [Het-s] 不適合株間でのヘテロカリオン形成 Rnq1p Saccharomyces cerevisiae 不明 [RNQ+],[PIN+] 異種プリオン発生効率の上昇 Mca1 Saccharomyces cerevisiae カスパーゼ(推定) [MCA+] 不明 2008 Swi1 Saccharomyces cerevisiae クロマチン再構築因子 [SWI+] 一部の炭素源において低増殖性 2008 Cyc8 Saccharomyces cerevisiae 転写抑制因子 [OCT+] 複数遺伝子の転写脱抑制 2009 Mot3 Saccharomyces cerevisiae 核内転写因子 [MOT3+] 嫌気性遺伝子の転写脱抑制 2009
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