遺伝学的調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 00:09 UTC 版)
獣害の報告の都合などもあって科学的な分類は明治期に開始された。しかし、家畜の犬を意図的に野生の狼と交配させる習慣が見られたり、マタギの証言でも野犬との交配個体を思わせる「種類」の報告があるなど混迷しており、現存する標本を用いても純粋なニホンオオカミを遺伝的に解明するのは困難だという指摘も存在する。フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトが所持していた「ヤマイヌ」も、mtDNAはオオカミと判定されたが頭骨に他の標本とは著しい差異が確認され、犬との交配個体の可能性が挙げられている。 岐阜大学教授の石黒直隆によりニホンオオカミの骨からDNAが取りだされて調査された結果、大陸のオオカミとも犬とも遺伝的に異なる系統であること、本州、四国、九州の各地域で捕獲されたサンプル間の遺伝的差異は小さく、遺伝的に均一性の高い集団であることが確かめられ、この論文は、2009年度の日本動物学会誌11月号に発表された。石黒教授は朝日新聞のインタビューに、「ニホンオオカミは限られた遺伝子集団であり、日本列島で孤立化した種」、「ニホンオオカミの起源となったオオカミもすでに絶滅しているのかもしれないが、探し出したい」旨のコメントを残している。 同論文中に示された遺伝子系統樹では、ニホンオオカミ集団は単系統のクラスターを形成しているが、系統樹全体で見ればイヌ(Canis lupus familiaris)を含むハイイロオオカミ(Canis lupus)の種内に包摂されているため、大陸のハイイロオオカミ系統とは亜種レベルの差異であることが示唆されており、遺伝系統の考察においても慎重ながらニホンオオカミは大陸のオオカミの一系統に由来すると推測されている。 その後石黒は2012年の日本獣医師会雑誌 第65巻第3号に掲載された論文の中で、「ニホンオオカミもユーラシア大陸由来のタイリクオオカミから派生した地方集団と考えて、島に閉じ込められて体型が小型化した島嶼化集団と推測するとわかりやすい」、「今後、朝鮮半島や台湾などユーラシア大陸の島嶼部で、ニホンオオカミと同じ系統を示すタイリクオオカミの依存種(ママ)がいないか調査してみたいものである」と述べており、2009年時点よりも明確に別亜種説を採っている。 2021年に発表された論文では、更新世のシベリアに生息していた系統の最後の生き残りであった可能性が指摘され、ハイイロオオカミはニホンオオカミよりもいくつかの犬種により近縁だとされている。
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