近年の観測精度に関する議論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 07:50 UTC 版)
「過去の気温変化」の記事における「近年の観測精度に関する議論」の解説
地球温暖化の進行状況を見積もる際は、どの変化に焦点を当てるか、また研究に使用できるデータベースなどによって議論の対象となる時間の長さは異なってくる。計測機器を使用した地球規模での気温の観測は1860年頃から始まっており、観測点は年々増え移動する観測点も多い。IPCCの第4次報告書の陸地の「世界平均気温」については、都市のヒートアイランド現象の影響が最小限となるようGHCN(Global Historical Climatology Network)などのデータから観測地点を選び、さらに人口などによる都市化の補正を行うことで地表平均気温の値を算出している。これまでIPCCは基本的にGHCNのような地上観測データに準拠してきたが、近年はラジオゾンデや衛星観測などによって精密なデータが得られるようになってきた。しかし、衛星データには観測年数が少ないという欠点がある。また、温室効果モデルによれば地上よりも対流圏中層の気温が上がるといわれているが、ラジオゾンデなどによって実際に観測された気温データには、対流圏中層の特異的な昇温現象(ホットスポット)は観測されていないなど、モデルと観測の食い違いが指摘されている。 一方、気象庁の陸地の「世界の年平均気温」はこれまでGHCNの全データを用いて算出していたが、データ精度の信頼性をより高めるために、2001年以降は気象庁に世界各国の気象機関から入電された月気候気象通報(CLIMAT報)の全データを用いて算出しており、都市化による補正は行われていない。また、全球平均海面水温はCOBE-SSTが用いられるようになり、陸地と海洋部分のデータを合わせることで、これまでよりさらに誤差の少ない全球平均気温が気象庁においても得られるようになってきた。 GHCNの観測地点は増減を繰り返しているため、その平均気温は絶えず異なる数の母集団から求められており、継続した気温の変化を単純に比較することを難しくしている。特に1990年前後を境に観測地点の急激な減少と平均気温の急上昇が同期して起こっている。また、GHCNの観測地点はアメリカやヨーロッパなどの先進国に偏っており、気温測定そのものに対しても、観測地点の周囲の環境の変化による影響や百葉箱などの保守管理に対する不備を指摘する声もあり、観測地点の選定や都市化の影響等を受けた近年の気温測定に関する不備を指摘する声は少なくない。一方、IPCCの報告書によれば気温変化における都市化の影響はそれほど大きくないとされているが、観測地点の変化と平均気温の間に高い相関が見られることなどから、IPCCの気温データに対して批判的な見方がある。長期の見積もりに関しては、樹木の年輪や氷床など様々な自然界の指標を用いて1000年単位の気温変化の復元が行われている(上記)。
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