赤城山起源2段階流下説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 10:05 UTC 版)
「岩神の飛石」の記事における「赤城山起源2段階流下説」の解説
群馬大学の火山学者である新井房夫(後の同大名誉教授 )は、1960年代より前橋泥流の詳細な調査を行った。新井は放射性炭素年代測定で得られた樹木片の年代値から、前橋泥流が堆積した年代は約24,000年前と推定し、堆積物に含まれる岩片と、その間を埋める火山灰質の割合が4対6ほどであり、この火山岩の角礫がガラス質の複輝石安山岩であるという共通点を見出し、前橋泥流堆積物の基質となる重鉱物の特徴をつかんだが、この特徴的な岩石・鉱物は浅間火山のそれに類似していたため、前橋泥流は赤城火山や榛名火山など前橋に隣接する火山群ではなく、前橋から遠く離れた浅間山方面から流れてきた可能性が高いことが分かった。 黒斑山 浅間山 赤岩弁天堂 浅間山・黒斑山と赤岩弁天堂(佐久市)の位置関係。 このことは岩神の飛石の起源を考察する上で大きな問題となった。前橋泥流が浅間山由来の火山泥流堆積物であるのなら、岩神の飛石は浅間山方面から運ばれてきたものと考えるのが自然であり、前橋泥流の上面に岩神の飛石が乗っている事実は、これまで考えられてきた「赤城山方面から運ばれた」とする赤城山起源説では説明することが出来ず矛盾してしまう。その一方で、岩神の飛石の起源が簡単に浅間山からのものと言い切ることも出来なかった。昭和初期の報告書ですでに「浅間山には岩神の飛石と同質の岩石がない」と報告されているように、浅間山の主な岩質は複輝石安山岩であって、岩神の飛石に含まれる角閃石は浅間山火山の中でも仏岩溶岩流と小浅間溶岩円頂丘といったデイサイトに限られていて、前橋泥流の発生の発端と考えられる浅間火山外輪山の(カルデラ縁)黒斑山の岩質も複輝石安山岩であって角閃石は含まれていない。 この矛盾点の解消を考えた新井は、もともと坂東橋付近に留まっていた赤城山由来の岩神の飛石が、24,000年前の浅間山方面からもたらされた前橋泥流によって2次的に押し流されて、現在地まで運ばれたとする赤城山起源2段階流下説とも称すべきシナリオ、仮説を提唱した。 坂東橋とは前橋市街地と渋川市を結ぶ国道17号の利根川に架かる橋で、岩神の飛石から北北西に約8キロメートル上流の位置にある。坂東橋の左岸(東岸)は赤城山西麓の末端部にあって、周辺一帯には赤城山から流れてきた複数の流れ山があり、新井はこれらの基盤となる岩質の一部分に、岩神の飛石と類似している場所を見つけた。この坂東橋東岸一帯の流れ山は「橘山」や、その800メートルほど南の田口町 (前橋市)の一角にある直径100メートルほどの小さな丘で今日も残存している。 この類似する岩石は赤城火山の噴火口付近で溶けて固まった溶岩が集積した岩塊で、かつては赤城火山のカルデラが形成される10万年以前に火口付近にあったものと考えられていた。昭和初期の報告書でも、これら赤城火山山頂付近(現、地蔵岳)にあった角閃石を含む岩塊群が、南西方向の山麓へ向かって泥流とともに流れ下ったと想定しているが、前述したように前橋泥流の堆積物が浅間山方面からのものであることから、赤城火山山頂付近から一気に岩神の飛石のある前橋市街地付近まで流されたのではなく、流れ山や岩塊群として坂東橋付近で一旦とどまった後、浅間山方面からの泥流、あるいは洪水に巻き込まれ、その一部が2次的に前橋市街地付近まで移動したと新井は考えた。 一方で、同じ赤城火山で後年になって発生した別の泥流により2次的に押し流されたとする仮説もあり、火山学者の守屋以智雄は新井との共著『赤城火山の生い立ちと将来の噴火』(1993年)の中で、地蔵岳の中央火口丘形成の『最終活動』は約2万年ほど前であると考えられることから、坂東橋付近に留まっていた赤城山由来の飛石が、同じ赤城山火山で活動最周期の2万年ほど前に発生した泥流により2次的に移動したものだとすると、樹木片の放射性炭素年代測定から2万4千年とされる前橋泥流の4千年ほど後に発生したこととなり、前橋泥流の上面に岩神の飛石が存在することと矛盾しないと考えることもできた。 しかし、赤城火山も浅間火山も主体となる岩質は複輝石安山岩であり、岩質の主成分の組織は全体的に類似しているため、これらを比較して起源を特定するのは難しく、赤城山起源説の要因として着目された角閃石についても、泥流の発生源として考えられた浅間山の外輪山黒斑山には確かに見られないが、仏岩や小浅間といった浅間山のデイサイト(溶岩円頂丘)には含まれることから、これらから派生した岩塊が黒斑山の泥流に巻き込まれたと考えることも可能であり、結局のところ、岩質だけを判定基準に起源を確定させるのは厳密な意味では無理があった。
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