認識と感情の現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/22 06:52 UTC 版)
睡眠中の思考プロセスは、通常の覚醒状態とは根本的に異なる傾向がある。例えば、ヒプナゴジア状態で同意した何かは、覚醒状態においては完全にばかげているように見えるかもしれない。ヒプナゴジアには、自我の境界の緩み、開放性、感度、物理的および精神的な環境の内在化(共感)、注意散漫が含まれる。ヒプナゴジア的な認識は、通常の覚醒状態と比較して、高い被暗示性(英語版)、非論理性、観念の流動的な関連性によって特徴づけられる。被験者はヒプナゴジア状態では、実験者からの暗示に対して他の時間よりも受容性が高く、外部刺激(英語版)をヒプナゴジア的な思考の連鎖やその後の夢に容易に取り入れる。この受容性は生理学的にも観察できる。脳波の測定値は、睡眠の開始時に音に対する反応性が高くなることが示されている。 ヘルベルト・シルベレ(英語版)は、「自己記号論」(autosymbolism)と呼ばれるプロセスについて記述している。それは、ヒプナゴジア的な幻覚が、抑圧なしに、その時に考えていることを何でも表現しているように見え、抽象的な観念を具体的なイメージに変え、それが適切で簡潔な表現として知覚されるというものである。 ヒプナゴジア状態において問題解決のための洞察が得られることがある。アウグスト・ケクレがストーブの前でうたた寝をしていたときに、分子が蛇になり、自分の尻尾を咥えて輪(ウロボロス)になる幻覚を見たことで、ベンゼンが環状構造であることに気づいたという話はよく知られている。他にも多くの芸術家、作家、科学者、発明家が、ヒプナゴジア状態で創造性が高められると主張している。その中には、ベートーヴェン、リヒャルト・ワーグナー、ウォルター・スコット、サルバドール・ダリ、トーマス・エジソン、ニコラ・テスラ、アイザック・ニュートンなどがいる。ハーバード大学の心理学者ディアードレ・バレット(英語版)は2001年の研究で、睡眠の後半の完全な夢の中でも問題を解決することはできるが、ヒプナゴジアでは、幻覚的なイメージを目前にしている状態でそれを批判的に検討することができることから、問題をより解決しやすいことを明らかにした。 ヒプナゴジア状態が睡眠の他の段階と共通している特徴は健忘である。ただし、これは選択的健忘であり、意味記憶を担当する大脳新皮質記憶系ではなく、エピソード記憶や自伝的記憶(英語版)を担当する海馬記憶系に影響を与える。ヒプナゴジアとレム睡眠が意味記憶の定着に役立つことが示唆されているが、その証拠は論争の的となっている。例えば、抗うつ薬や脳幹の病変によるレム睡眠の抑制が、認知に有害な影響を与えるという証拠は発見されていない。 ヒプナゴジア的な現象は、体験者の信念や所属する文化に応じて、預言、予知、霊的体験(英語版)、霊感として解釈されることがある。
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