言語学的な概観
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/10 05:57 UTC 版)
日本手話は、日本語とは全く異なる言語学的特性を備えている。 (それに対して、日本語対応手話は、日本語の通りに口を動かしながら手話単語を並べるものであり、文法は基本的には(音声言語・文字言語の)日本語のそれと同様のものである)。 末森(2017)は、日本手話という用語に見られる「手話」は個別言語としての狭義の手話、日本語対応手話という用語の「手話」は手指媒体を用いる意思疎通手段を意味する広義の「手話」を指しており、この「手話」という用語の多義性ゆえに、日本手話と日本語対応手話をめぐる議論が「不毛なものになっている(p.260)」と指摘している。。 アメリカ手話については、聴者のジェスチャー・アメリカのろう者の手話表現・フランス手話が接触して生じたクレオールであると主張されている。日本手話でも聴者のジェスチャー由来と思われる表現(OKなど)は散見されるが、少なくとも140年を越えるその歴史的な側面を扱った文献では、他地域で確立された手話との重大な接触は報告されていない。 しかし、手話言語全般に関して、ジェスチャーがクレオール化して発生したものであるという趣旨の論考が広まりつつある 日本手話は、手や指、腕を使う手指動作だけでなく、非手指表現(NMM、NMs, NM表現ともいう)と呼ばれる、顔の部位(視線、眉上げ・眉寄せ、目の見開き・細め、頬を膨らませたりすぼめる、口型や口の半開き、舌出し、首の傾きや首ふり、あご引き・あご出しなど)が重要な文法要素となっている。 語順はSOV型であるとされる。主語または目的語が動詞を表す手の空間的位置で表される一致動詞と呼ばれる動詞タイプがあり、それを手話の文法的な一致とみなすかについては異なる見解が存在する。 平叙文・疑問文・否定文・条件文など、音声言語に標準的にみられる構文が存在するが、その文法的特性は非手指表現によって示されることが多い。 また、手話特有の構文として、CL構文と呼ばれるものがある。CLとは「ものの動きや位置、形や大きさなどを、手の動きや位置、形に置き換え」るものでありひとつの手話表現で音声言語では複数の文で表現される量の情報が表される。市田(2005)は、手話の図像的な形式がCLと呼ばれると述べている。 以前は、(音声言語・文字言語の)日本語と異なる言語であることや、いわゆる音声言語でも文字言語でも(あるいは、口頭言語でも書記言語でも)ない、といったことを理由に、手話言語は音声言語を対象とする言語学とはまったく異なるアプローチで研究されるべきであるという主張もあった。しかし実際には、手話言語にも母語話者による容認性の判断を得ることは可能であり、他の自然言語と同じ手法を用いた研究がなされている。 たとえば似ている手話表現同士は「発音が似ている」ととらえられる。手話の「音」の要素を研究対象とする手話音韻論においては、手話の“音素(おんそ=音の要素)”は「手型」「位置」「動き」であり、音声言語と同等の弁別性が観察できる。この3つに加えて「手のひらの向き」にも弁別性が見られるという指摘もある。
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