組織固定用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/17 17:34 UTC 版)
ホルマリンは強力な架橋反応を起こして細胞を殺すため、生体にとっては有害であり、組織の形状のみを維持するために用いられる。医学、生物学において、ホルマリン原液を3〜5%に希釈したものは、生物個体あるいは組織片の標本作製のための防腐、固定処理に広く用いられている。これはホルマリンに含まれるホルムアルデヒドが、組織の細胞内外に浸透し、分子中のアルデヒド基が主に組織中の蛋白質のアミノ基に結合し、さらに架橋することで、蛋白質の立体構造を損なわせ、酵素活性、輸送、分泌などの様々な生物活性を働かなくさせる作用のためであると考えられている。このような作用が起きれば細胞は生存できなくなり、完全に死滅するが、それ以上の蛋白質の変性の進行、腐敗などをはじめとする死後変化は起きなくなる。あるいは、死後ホルマリンに漬けられたのであれば、その時点で死後変化は停止する。生体の機能面で見た場合には、架橋反応によりタンパク質の分子が変性した後に固定されるため、機能は完全に廃絶する。 生物の個体や組織片をホルマリンに漬けると、生物の体は多くの場合、浸漬時間とともに非常に硬くなり、また架橋反応の進行に伴い、最大で十数%収縮する。一方、主な作用が蛋白質分子の架橋反応なので、脂肪などの他の物質にはホルマリンによる固定作用は働かず、流れ出してしまう。また、ホルムアルデヒドは水溶液中で徐々に酸化してギ酸を生じるので、石灰質の硬組織を持つ脊椎動物や甲殻類の内骨格や外骨格の燐灰石や炭酸カルシウムの結晶を侵食し、損なう。そのため、こうした硬組織を持つ生物の標本作成に際しては、ホルマリン原液に炭酸水素ナトリウム(重曹)、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)などを溶解させ、ギ酸の中和を図る、あるいは固定後に標本を水洗してアルコール(エタノール)液浸に切り替えるのが通例である。 ホルマリン処理は、生物体の肉眼的な保持のほかに、顕微鏡観察を行う標本作製の準備段階としても行われる。また、生物体を長期間保存して、後でDNAを抽出したい場合にも、冷凍庫が利用できない場合にはホルマリン浸漬が用いられることもあるが、DNA分子の塩基部分のアミノ基とも結合し、架橋反応を引き起こすのであまり好ましくない。そのため、分類学の分野で形態記載の全身標本とDNA抽出用の標本を1個体で両立させるため、全身をホルマリン固定で保存するに先立ち筋肉片など一部の組織片を生の状態で取り出し、こちらは無水エタノールやアセトンに浸漬して組標本として保存することがよく行われる。
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