男性支配と女性解放
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 15:22 UTC 版)
「家族・私有財産・国家の起源」の記事における「男性支配と女性解放」の解説
「(未開から文明への中位段階の)工業的成果のうちで二つのものが重要である。第一は機織りであり、第二は金属鉱石の溶解と金属の加工である。……。すべての部門―牧畜、農耕、家内工業―における生産の増大は人間の労働力に、その生計に必要なより多くの生産物をつくる能力を与えた。それは同時に、氏族、世帯共同体、または個別家族の各構成員に課される日々の労働量を増大させた。新しい労働力の編入が望ましくなった。戦争がこれを供給した。すなわち、捕虜が奴隷に転化させられたのである。最初の大きな社会的分業は、その労働の生産性の、したがって富の増大につれて…、必然的に奴隷制度をもたらした。最初の大きな社会的分業から、二つの階級への社会の最初の大きな分裂が発生した。すなわち、主人と奴隷、搾取者と被搾取者への分裂が。 いまや畜群やその他の他の新しい富とともに、家族のうえに一つの革命がやってきた。……。いまや生業がもたらす剰余はすべて男性に帰した。女性もその享受にあずかったが、その所有にはあずかることはなかった。「粗暴」な戦士・猟人は、家庭内では女性に次ぐ第二の地位に満足していたが、「ヨリ柔和」な牧人は、自分の富を頼って第一の地位にのしあがり、女性を第二の地位に押しのけた。……。 女性の家事労働は、いまでは男性の生業労働のまえに影にひそめた。後者がすべてであって、前者はとるに足らない添え物であった。ここにすでに示されているのは、女性の解放、男女の平等は女性が社会的な生産的労働から排除されていて、家事の私的労働に局限されたままであるかぎり、不可能事であり、今後ともそうであろうということである。女性の解放は、女性が大きな社会的な規模で生産に参加することができて、家事労働がとるに足らない程度にしか女性を煩わさないようになるときに、はじめて可能となる。そしてそれは近代工業によって初めて可能となった。近代的大工業は、女子労働をたんに大規模に許すばかりではなく、それを本格的に要求し、また私的に家事労働をもますます公的な産業に解消することに努めているのである。」 ここでのエンゲルスの論点は二点に要約される。 一点目は、農牧業によって男性労働力の価値が上昇していき、これに対比するように、女性の社会的地位が低下したという指摘である。新石器革命による農牧業の開始とそれに伴う社会的生産力の増加によって、男性の労働が物質的生活を維持する中心的活動へと発展を果たす一方、女性の家事労働や家内生産が従属的な活動へと押し下げられていき、次第に女性の地位が低下した。人類史は、社会的労働における奴隷ならびに賃金労働者の使用と家庭内労働における専業主婦の使用とが対の関係になって成立する。家庭の外は男性支配者と奴隷と労働者の世界、家庭の中は男性支配者の家族と家庭内に押し込まれた女性の世界と二極の世界が成立した。 二点目は、将来における女性の進む未来に関する予想を含んでいる。 近代工業の機械的生産体制が確立されると、ブリテン労働者階級の女性の類例でもあるように、働く女性は男性よりも低賃金で使用できる労働力となり、その社会進出は進展していく。とりわけ、エンゲルスの死後に勃発した第一次世界大戦下では男性労働力が不足し、不足した労働力の埋め合わせとして、女性の社会進出が世界各国で進展した。
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