片岡蔵相の失言
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 15:44 UTC 版)
3月14日、衆議院予算委員会にて審議の始まる直前、当日の決済のための資金繰りに困り果てた東京渡辺銀行の渡辺六郎専務らが午後1時半頃に大蔵次官の田昌(でん あきら)に陳情し、「何らかの救済の手当てがなされなければ本日にも休業を発表せざるを得ない」旨を説明した。田は対応を片岡蔵相に相談すべく議場に赴いたが審議中で直接会えず、事情を書面にしたためて片岡に言付けた。なお、渡辺らは救済を求める意図で陳情したが、大蔵省の側では従前の調査で内情が悪い事を把握しており、休業の報告に来たものと理解していたという。実際に田は予算委員会審議室に向かうに際して原邦道事務次官を渡辺らに紹介し「銀行休業の善後策」につき手続き等を相談する様に指示している。 一方で東京渡辺銀行は大蔵省からの助力を得る見込みが立たなかったので改めて金策に走り、第百銀行から資金を手当てすることに成功して当日の決済を無事に済ませた。その旨を大蔵省にも電話で伝え、原がその知らせを受けたが、田は既に議場に赴いており、すぐには伝わらなかった。 予算委員会では野党が震災手形処理方法も絡めて苦境に陥っている銀行の処理策を問いただし、震災手形を抱える不良銀行や、業績の悪い企業の名を明らかにするように求めた。 これに対し、個々の企業の状況を明かすことは信用不安につながると危惧した片岡蔵相は、次官から差し入れられた書面にあった東京渡辺銀行支払停止の情報(正午に支払いを停止した旨と、預金残高等の情報が書面に記載されていた)を交え、破綻した銀行については財産を整理して引受先を見つけて統合する手続きを大臣の責任において着実に行う旨の回答にとどめたが、その中で直近の破綻銀行を例示するにあたり、 「 ・・・現に今日正午頃に於て渡辺銀行が到頭破綻を致しました、是も.mw-parser-output ruby.large{font-size:250%}.mw-parser-output ruby.large>rt,.mw-parser-output ruby.large>rtc{font-size:.3em}.mw-parser-output ruby>rt,.mw-parser-output ruby>rtc{font-feature-settings:"ruby"1}.mw-parser-output ruby.yomigana>rt{font-feature-settings:"ruby"0}洵(まこと)に遺憾千万に存じますが・・・ 」 と発言した。 ここであえて具体的に破綻銀行の事例について触れたのは、いたずらに原理原則論をもって審議を長引かせることは対応を遅らせ、このように銀行を破綻に追いやり状態を悪化させる結果になる、という牽制の意図から出たという指摘がある。 一方で、片岡に付き添っていた大蔵省文書課長の青木得三は議場から大蔵省に戻って東京渡辺銀行の金策がついたという報告を受け、同行に電話をかけて平常通り営業を続けていることを確認した。青木は片岡の発言が誤っていたことを知り、これが報道されるのを防ぐべく、報道差し止めの権限を持つ内務省警保局長の松村義一にかけあったが、松村は片岡がそのような発言をした以上はこれを差し止めることは出来ないとして要請を拒否した。こうして片岡の「東京渡辺銀行破綻」発言は翌日報道された。また、議会でのやり取りを直接伝え聞いた預金者が終業間際の東京渡辺銀行に殺到し、取り付け騒ぎが起こった。 翻って「破綻を宣告」された東京渡辺銀行の渡辺六郎専務は、蔵相官邸に赴いて片岡の発言が間違いないと確認すると笑みを浮かべたというが、異説には、その専務の人柄から言ってそれはありえないとも言われ、片岡もそれには疑問を抱いている。 いずれにせよ、東京渡辺銀行の首脳陣は同夜に姉妹行のあかぢ貯蓄銀行共々翌日から休業することを決定した。依然危機的経営状況を脱しておらず、早晩休業は避けられないところであり、蔵相の失言にかこつけて休業し、その責任を転嫁したのだと受け取られている。 直後より「いまだ経営している銀行について破綻を宣告し、混乱を招いた」ことについて新聞報道は片岡の発言を「失言」と取り上げ、野党も「休業するつもりの銀行が金策に走るのは不自然」などと指摘して「失言」で銀行を破綻に追い込んだと攻撃した。しかし、片岡はあくまでも「14日に渡辺銀行が休業の報告に来た」とする態度を貫き、のちにこれを裏付ける同行専務直筆の顛末書を示して事態の収拾を図った。なお、この直筆の顛末書についても、事後に片岡らの意に沿う内容で専務が書かされたのではないかという指摘もあるが、専務は何も語っていない。
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