父系のルーツ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 02:46 UTC 版)
父系のルーツを辿ることができるY染色体ハプログループは、数万年にわたる長期的な追跡に適しており、1990年代後半から研究が急速に進展した。 長らく、日本人は『Y染色体ハプログループD1a2aの縄文系』と『ハプログループO1b2の弥生系』を起源とする東京大学名誉教授植原和郎が唱えた「二重構造モデル」が主流であったが、最新のゲノム解析で『ハプログループO3a2cの古墳系』からなる「三重構造モデル」であることが証明された。この『Y染色体ハプログループD1a2aの縄文系』は日本人(大和民族)及び沖縄人(琉球民族)とアイヌ人や本土日本列島奄美群島及び琉球列島と千島列島の3集団に多く見られるタイプである。 国外では韓国、ミクロネシア、ティモール島などで低頻度にみられる。 このハプログループD1a2aはアイヌ人の75%に見られることから、D系統はかつての縄文人(旧石器時代のシベリア)のものであると考えられている。但し縄文人のハプログループがD1a2aだけだった訳ではなくハプログループC1a1も縄文人由来と考えられている。 ハプログループD系統はYAP型(YAPハプロタイプ)ともいわれ、現代アジアにおいて支配的なO系統やC2系統とは分岐から7万年以上経ており、最も近縁であり同じYAP型であるE系統とも6.5万年前に分岐した系統である。現在D系統は、日本列島以外で高頻度の地域はチベット とアンダマン諸島 しかない。ハプログループDは、現代の東アジア人とシベリア人に近い「東アジアのハイランダーズ」(古代チベット人)に関連していて、縄文時代後期に増加し、C1a1、K、Pなどの以前の縄文時代の系統に大きく取って代わったとされる。 なお、当時の弥生人や現代東アジアにおいて支配的なO系統は、ウラル系のN系統やコーカソイド系において最多的なR系統などと近縁であり、縄文人やアイヌ等のYAP型(D系統、E系統)とは全く異なるグループである。 以上のことから縄文人から自然進化的に弥生人が派生したという説は完全に否定されている。 日本列島にD系統の人々が入ってきたのは数万年前の最終氷期地続きの時代と考えられている。その証拠として、日本人のD系統にのみ見られる多くのSNPの発生があげられる。SNPは突然変異により発生する確率的な事象であるから、発生数によって時間の経過が分かるのである。日本固有のD1a2a系統はその発生から3.5-3.7万年ほどたっているとされ、考古学から求められる日本列島に最初に現生人類集団が到来した時期と一致している。 長らく縄文人の人骨よりY染色体ハプログループは分析されてこなかったが、北海道礼文島の船泊遺跡(縄文時代後期前葉から中葉(約3,800~3,500年前))から出土した人骨・船泊5号のY染色体ハプログループがD1a2a2a(D-CTS220)であることが判明した。これにより「ハプログループD1a2aは縄文系である」という従来よりの仮説に一つ近づいたが、検証したのは長い縄文時代の中期のたった一人である為、時代、地域共に広範囲での多数の検証が期待される。 とりわけハプログループC1a1は拡散年代と縄文文化開始の時期が一致しており、今後の研究いかんによっては初期の縄文人の主要なDNAとなる可能性がある。C1a1は日本人固有であり、現在の日本ではおよそ5%の頻度で発見されている。
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