氷山と棚氷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/16 09:19 UTC 版)
南極海の南岸はすべて南極大陸となっているが、南極大陸の海岸の多くは氷で覆われており、岩石が露出しているのは全海岸の5%にすぎない。13%は氷河、38%は氷床がそのまま壁となっている氷壁であるが、最も多い44%の海岸は棚氷となっている。棚氷は南極を覆う氷床が海の上にそのまま張り出したものであり、陸上の氷と連結している。棚氷の厚さは数十mにも達する。棚氷で最も大きなものはロス海に浮かぶロス棚氷 (472,960 km2)であり、ついでウェッデル海の南側を覆うフィルヒナー・ロンネ棚氷 (422,420 km2)が大きい。この2大棚氷は突出して大きな棚氷であるが、他にも南極大陸沿岸にはアメリー棚氷 (62,620 km2)、ラーセンC棚氷 (48,600 km2)、リーセル・ラーセン棚氷 (48,180 km2)、フィンブル棚氷 (41,060 km2)、シャクルトン棚氷 (33,820 km2)、ジョージ6世棚氷 (23,880 km2)、ウエスト棚氷 (16,370 km2)、ウィルキンス棚氷 (13,680 km2)といった大きな棚氷が存在する。これらの棚氷は、末端部分は海に浸食されてやがて棚氷から分離し、氷山となる。氷山はなにかの衝撃で末端部分が崩壊してできることがあり、東日本大震災時にも南極大陸に到達した津波の衝撃によって巨大氷山が南極海に流出している。 20世紀末以降、地球温暖化の影響などで南極各地で棚氷の崩壊が観測されるようになってきている。上記のラーセンC棚氷はかつてラーセン棚氷(ラルセン棚氷)と呼ばれる一つの巨大な棚氷だったが、1995年1月にラーセンA棚氷が崩壊、2002年2月にはラーセンB棚氷の半分が崩壊し、2012年にはラーセンB棚氷の85%が消滅していることが明らかになった。これにより、ラーセン棚氷はほぼラーセンC棚氷が残存するのみとなった。2008年にはウィルキンス棚氷の末端部が急速に崩壊しつつあることが確認され、南極半島とは細い氷床でつながっているだけとなっていたが、2009年4月5日には南極大陸からの分離が確認され、棚氷ではなくなった。こうした棚氷の崩壊の最大の原因は、海水温の上昇によって棚氷の底面が融解しつつあることが大きな原因の一つとされる。 南極海には多数の氷山が浮遊している。南極海の氷山は南極大陸の棚氷が割れて海へと流れ出たものであるため、多くはテーブル型の平らな形をしており、巨大なものが多い。南極の氷山の北上する限界点は、ごくまれにある巨大すぎて溶け切れなかったものを除けば南緯60度前後であり、南極海とほぼ一致する。また、南極大陸に近づくにしたがって海そのものが凍り始め、南極大陸沿岸やウェッデル海は年間を通じて結氷したままである。こうした永久氷に覆われた海域は、しかし北極海と比べると非常に小さい。南極大陸沿岸の多くの部分で、永久氷は大陸の縁に20kmから30kmほど張り付いているに過ぎない。これは、北極海が閉鎖性海域であるうえ北極点が洋上にあるのに対し、南極海は極点が大陸上にあるため最も寒い区域は海上にないことや、南極海が広く開けた海域であり、また常に強風が吹いているために氷の定着が妨げられることによる。このため、南極海の氷の多くは一年で成長し融解する流氷となっている。この流氷は夏季になれば大部分は溶けるものの、一部は残存し、また風によって吹き寄せられることが多いため、夏季においても各国の就航させる南極砕氷船が氷に閉じ込められることがよくある。逆に、冬季にはこの氷は非常に成長する。 海氷に覆われたこうした海域にも、ところどころにポリニヤと呼ばれる氷のない水域が存在する。これは深海からの温かい水の上昇や海流の影響などによってできるもので、栄養が豊富なうえ日光をよく吸収し温暖となるため、光合成をおこなう植物プランクトンが繁殖しやすく、さらにそれを餌とする動物も多く集まるなど、生物にとってのオアシス的存在となっている。
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