根拠法を巡る問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 18:44 UTC 版)
法律を欠いたままでの栄典制度の再開については立法権との関係から問題視する立場もあり、本来、「栄典法」のような法律でその内容を規定すべきとの指摘がある。 2022年5月現在、日本において、叙勲制度を含む栄典制度に関する法律は定められていない。そのため、栄典制度・叙勲制度は、日本国憲法7条7号が天皇の国事行為の一つとして定める「栄典を授与すること。」を根拠とし、政令(太政官布告、勅令)・内閣府令(太政官達、閣令)・内閣告示等に基づいて、内閣が実際の事務を行い運用されている。 そこでまず、法律の根拠に基づかず、政令以下の法令によって叙勲制度を含む栄典制度を内閣が実施することは、憲法に違反するのではないかということが問題となる。この点、政府見解によれば、憲法73条6号は「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」、すなわち政令制定権を内閣の権限として定めているところ、内閣は「この憲法…の規定」である憲法7条7号の「栄典を授与すること」を実施するために政令を制定して、この政令及び内閣府令等の法令に基づいて栄典制度を実施しているのであるから、何ら憲法に反するところはないとする。これに対して反対説の立場によれば、憲法73条6号に定める内閣の政令制定権は、「憲法及び法律を実施するために」行使されるところ、ここでいう「憲法及び法律」は一体として読むべきであり、憲法を直接実施する旨の政令を定めることはできず、法律の存在が前提になるとし、根拠となる法律を欠く栄典制度の実施は憲法に反するとする。 次に、政府見解は、憲法41条後段に定める「立法」の意味と立法事項の範囲について、「立法」とは「国民の権利を制限し、または義務を課す法規範の定立」を意味し、かかる法規範の定立を必要とする行為を法律事項とする見解(権利制限事項説)を前提として、栄典の授与という行為は、国民の権利を制限し又は義務を課すものではなく、その意味で本来の法律事項でなく、栄典の授与に法律の根拠は不要とする。なお、内閣法11条が「政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。」と定めるのも、同様の見解に立つためである。これに対して反対説の立場は、憲法41条後段の「立法」の意味を「およそ一般的・抽象的な法規範すべて」とする見解(一般的法規範説)を前提として、栄典の授与は、およそ一般的(法律の受範者が不特定多数人であること)かつ抽象的(法律の規律が及ぶ事件が不特定多数であること)である行政行為にあたることから、法律の根拠を必要とする。なお、権利制限事項説の立場からも、一定の非行があった場合に勲章を褫奪することなどを定めた勲章褫奪令(明治41年勅令第291号)については、法律によって定めるべき事項を含むとも解されるが、日本国憲法の施行後も同令は政令として改正されている。 また、現行の栄典関係の政令(太政官布告、勅令)・内閣府令(太政官達、閣令)等の法令は、果たして有効かどうかも問題となる。この点、政府見解によれば、勲章制定ノ件(明治8年太政官布告第54号)や大勲位菊花大綬章及副章製式ノ件(明治10年太政官達第97号)など現行の栄典関係の法令は、憲法98条1項が定める「この憲法…の条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部」にあたらないため、日本国憲法施行後もなお効力を有しており、その後に政令等として適正な手続による改正も経ているため、有効であるとする。これに対して反対説の立場によれば、栄典の授与は法律事項であることを前提として、栄典関係の政令(太政官布告、勅令)・内閣府令(太政官達、閣令)等の法令は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)1条にいう「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定で、法律を以て規定すべき事項を規定するもの」に該当するところ、同法1条の4の「国会の議決」により法律に改められなかったため、同法1条によって、1947年(昭和22年)12月31日限りで失効したとする。第一法規の現行法規総覧・国会図書館の日本法令索引でも同様に失効と変更された。
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