未完成のフーガについて
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 04:44 UTC 版)
「フーガの技法」の記事における「未完成のフーガについて」の解説
第14コントラプンクトゥスは、3つ目の主題が導入された後の第239小節、3つの主題が重なって登場した直後で突然中断されている。 自筆譜には、バッハの息子であるC・P・E・バッハによって、「作曲者は、"BACH"の名に基く新たな主題をこのフーガに挿入したところで死に至った ("Über dieser Fuge, wo der Nahme B A C H im Contrasubject angebracht worden, ist der Verfasser gestorben.")」と記されている(譜面右下参照)。しかしながら、現代の学者たちはこの記述について強く疑問を抱いている。なぜなら、自筆譜の音符は疑いなくバッハ自身の手によって書かれているものであり、視力の悪化のために筆跡が乱れるより前の1748年から1749年の間に書かれたと思われるからである。 また、この記述の下、5線7段が空白のまま残されているが、その最下段右側に僅に音符が書き込まれている。この音符は、同じ譜面に書かれた他の音符よりも符頭が小さく、別の時期に書き込まれたものとされるが、これが本曲と関係があるのかは不明である。 更に、自筆譜5枚目の裏面には「und einen andern Grund Plan(そしてもう1つの基本計画)」との記述があり、未完成のフーガに関わるものなのか、或いは単なるメモなのかは全く不明である。バッハ本人の手による書き込みではなく、誰の手によるものかは未だ明らかでない。 弟子のアグリコーラとC・P・E・バッハによって書かれたバッハの『故人略伝(英語版)』には、「彼の命を奪った病によって計画の完成は妨げられ、最後から二つ目のフーガを書き上げることも、四つの主題を持ち、それから四声すべての音を残らず転回させる最後のフーガを仕上げることもできなかった」と記されているが、この文の解釈は分かれている。中断時点では集中で唯一、主要主題もしくはその明確な変形が現れておらず、グスタフ・ノッテボームは1881年の論文で、三つの主題に加えて曲集の主要主題を対位法的に結合させ、四重フーガを作ることができると示した。 未完成のフーガを補筆し、完成させて演奏した例はあり(ドナルド・フランシス・トーヴィー、ヘルムート・ヴァルヒャ、デイヴィット・モロニーなど)、楽譜も多く出版されている。しかし、多くの演奏家は原典通りに未完成のまま演奏しているようである。録音においては、最後のいくつかの音符にフェードアウト処理を施していることもある。
※この「未完成のフーガについて」の解説は、「フーガの技法」の解説の一部です。
「未完成のフーガについて」を含む「フーガの技法」の記事については、「フーガの技法」の概要を参照ください。
- 未完成のフーガについてのページへのリンク