未完成のピアノパート
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/10 03:55 UTC 版)
「ピアノ協奏曲第26番 (モーツァルト)」の記事における「未完成のピアノパート」の解説
この協奏曲の特異な点は、作品全体を通して、多くの部分でピアノ独奏部の左手が書かれていないことである。冒頭の独奏(第1楽章、第81–99小節)でも書かれていないし、第2楽章は全体にわたって書かれていない。モーツァルトのピアノ協奏曲の中で、これほどまでに作曲家自身によって独奏部が書き込まれていない作品はない。1794年の初版では左手部分が補完されており、アルフレート・アインシュタインやアラン・タイソンなどモーツァルト研究家の多くは、この補完は出版者のヨハン・アンドレによるものと見なしている。アインシュタインはアンドレの補完が若干不満足なものであるとして、次のように述べている。 「 大部分においては、この補完は極めて単純で控えめなものであるが、時に、例えばラルゲット楽章の主題の伴奏などでは、とてもへたくそであり、モーツァルト本人の様式に基づいた改訂・洗練によって独奏部全体ははるかによくなるだろう。 」 ただし、初版時に補完が必要であったパッセージの大部分は、アルベルティ・バスや和音などの単純な伴奏音型である。例えば第1楽章第145–151小節など、より複雑で名人芸を披露するようなパッセージにおいては、モーツァルト自身が両手ともに書いている。それ以外の部分については、アインシュタインのことばを借りれば、モーツァルト本人は「何を弾くべきか完璧に分かっていた」ために、自筆譜が未完成のまま残されたと考えられる。ただし野口秀夫は、あくまでもモーツァルトは左手パートを補筆して出版するつもりだったものの、生前に出版の機会がついに訪れなかったために未完になったと推測している。 ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社の『旧全集』では、モーツァルトの自筆部分と初版時の補完を区別していないが、『新モーツァルト全集』では、補完部分の音符のポイント数を落として、自筆譜にないことを示している。 モーツァルトの弟子で、初演にも立ち会っていたヨハン・ネポムク・フンメルは、ピアノ・フルート・ヴァイオリン・チェロ用の編曲(ピアノの左手パートも補われている)を残しており、白神典子らが録音している。フンメルはピアノ独奏用編曲も残したが、カデンツァは経過句含めてカットしている。また、ピアニストのロバート・レヴィンも左手パートを補筆して演奏している。
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