新古典派成長モデル
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「経済成長の黄金律」の記事における「新古典派成長モデル」の解説
もともとデイヴィッド・キャスやチャリング・クープマンスのモデルは社会計画のための最適成長モデルであったが、後にこれを市場経済における家計の最適化行動におきかえて動学一般均衡モデルとして用いるようになった。この種の動学一般均衡モデルを新古典派成長モデルなどという。 新古典派成長モデルでは、均斉成長で利子率が成長率を上まわり、消費が黄金律より少なくなる。黄金律に達するほど時間選好率を低く設定すると、家計効用が無限大に発散するからである。このことを以下に示す。 まず企業を考える。企業について次のように想定する。 企業は多数存在し、どれも同じ構造をもつ。 企業は競争市場で労働者 N t {\displaystyle N_{t}} を雇い資本 K t {\displaystyle K_{t}} を借り生産物 Y t {\displaystyle Y_{t}} を売る。 生産技術 A t {\displaystyle A_{t}} は伸び率 a {\displaystyle a} で外生的に上昇する。 企業は生産関数 Y t = F ( K t , A t N t ) {\displaystyle Y_{t}=F(K_{t},A_{t}N_{t})} で生産を行う。 企業は利潤を最大化し、生じた利潤を全て家計に配当する。 生産関数について次のように仮定する。 F {\displaystyle F} は1次同次関数とする(規模に関する収穫一定)。 f ( k ) ≡ F ( k , 1 ) {\displaystyle f(k)\equiv F(k,1)} は2回微分可能で f ′ ( k ) > 0 , f ″ ( k ) < 0 {\displaystyle f'(k)>0,f''(k)<0} とする。 lim k → 0 f ′ ( k ) = ∞ , lim k → ∞ f ′ ( k ) = 0 {\displaystyle \lim _{k\to 0}f'(k)=\infty ,\lim _{k\to \infty }f'(k)=0} とする(稲田の条件)。 有効労働 A t N t {\displaystyle A_{t}N_{t}} あたりの資本を k t ≡ K t / A t N t {\displaystyle k_{t}\equiv K_{t}/A_{t}N_{t}} と定義すると、資本の限界生産力は f ′ ( k t ) {\displaystyle f'(k_{t})} と表される。競争市場であるから資本レンタル料は資本の限界生産力と一致し、また、市場利子率 r t {\displaystyle r_{t}} は資本レンタル料から資本減耗率 δ {\displaystyle \delta } を控除した分に等しくなる。 r t = f ′ ( k t ) − δ {\displaystyle r_{t}=f'(k_{t})-\delta } 有効労働の限界生産物は f ( k t ) − f ′ ( k t ) k t {\displaystyle f(k_{t})-f^{\prime }(k_{t})k_{t}} で表され、競争市場のもとでそれは有効労働あたりの実質賃金 w t {\displaystyle w_{t}} と等しくなる。 w t = f ( k t ) − f ′ ( k t ) k t {\displaystyle w_{t}=f(k_{t})-f^{\prime }(k_{t})k_{t}} 次に家計を考える。家計について次のように想定する。 家計は多数存在し、どれも同じ構造をもつ。 各家計の構成人数は伸び率 n {\displaystyle n} で増える。 各人は各時点で労働を1単位供給する。 家計は資本を保有し企業に貸す。初期時点でどの家計も同じだけ資本を保有する。 家計は生涯の効用を最大化するように、所得を消費と貯蓄に分配する 家計の生涯効用は次のように定義される。 U = ∫ 0 ∞ e − ρ t u ( C t N t ) N t H d t {\displaystyle U=\int _{0}^{\infty }e^{-\rho t}u({\frac {C_{t}}{N_{t}}}){\frac {N_{t}}{H}}dt} C t {\displaystyle C_{t}} は消費の総量、 N t {\displaystyle N_{t}} は総人口、 H {\displaystyle H} は家計の総数であり、したがって C t / N t {\displaystyle C_{t}/N_{t}} は一人あたり消費、 N t / H {\displaystyle N_{t}/H} は各家計の構成人数である。関数 u {\displaystyle u} は各人の各時点の効用を示し、それにその時点の家計構成人数を乗じた u ( C t / N t ) N t / H {\displaystyle u(C_{t}/N_{t})N_{t}/H} は各家計の各時点の効用を表わす。 ρ {\displaystyle \rho } は主観的な割引率であり、 ρ {\displaystyle \rho } が高いほど家計は目先を重視し先行きを軽視する。 関数 u {\displaystyle u} は次のような形を仮定する。 u ( c ) = { c 1 − θ 1 − θ θ ≠ 1 , θ > 0 log ( c ) θ = 1 {\displaystyle u(c)={\begin{cases}{\dfrac {c^{1-\theta }}{1-\theta }}&\theta \neq 1,\theta >0\\\log(c)&\theta =1\end{cases}}} 有効労働あたりの消費 c t ≡ C t / A t N t {\displaystyle c_{t}\equiv C_{t}/A_{t}N_{t}} と有効労働の成長率 g ≡ a + n {\displaystyle g\equiv a+n} を用いて家計の生涯効用を表すと次のとおりである。 U = A 0 1 − θ L 0 H ∫ 0 ∞ e − ( ρ + θ a − g ) t u ( c t ) d t {\displaystyle U={\frac {A_{0}^{1-\theta }L_{0}}{H}}\int _{0}^{\infty }e^{-(\rho +\theta a-g)t}u(c_{t})dt} また次のように仮定する。 技術進歩を伴う割引の仮定: ρ > ( 1 − θ ) a + n {\displaystyle \rho >(1-\theta )a+n} この条件を追加することで家計効用が無限大に発散しないことが保証される。この条件が満たされないと、家計効用が無限大になり家計の最大化問題が適切に設定されない。この仮定は本節の目的のために重要であり、後で再び登場する。 代表的な家計は、 r t {\displaystyle r_{t}} や w t {\displaystyle w_{t}} を所与と考える。家計の予算制約は、生涯にわたる消費の現在価値が、生涯にわたる労働所得の現在価値と、ゼロ時点の財産の和を超えないことである。割引因子を δ t ≡ e − ∫ 0 t r s d s {\displaystyle \delta _{t}\equiv e^{-\int _{0}^{t}r_{s}ds}} と定義すると、各家計の消費は C t / H {\displaystyle C_{t}/H} であり、労働所得は w t A t N t / H {\displaystyle w_{t}A_{t}N_{t}/H} であるので、家計の予算制約は次式のとおり表わされる。 ∫ 0 ∞ δ t C t H d t ≤ K 0 H + ∫ 0 ∞ δ t w t A t N t H d t {\displaystyle \int _{0}^{\infty }\delta _{t}{\frac {C_{t}}{H}}dt\leq {\frac {K_{0}}{H}}+\int _{0}^{\infty }\delta _{t}w_{t}{\frac {A_{t}N_{t}}{H}}dt} これを有効労働あたりで表すと次のとおりである。 ∫ 0 ∞ δ t e g t c t d t ≤ k 0 + ∫ 0 ∞ δ t e g t w t d t {\displaystyle \int _{0}^{\infty }\delta _{t}e^{gt}c_{t}dt\leq k_{0}+\int _{0}^{\infty }\delta _{t}e^{gt}w_{t}dt} 以上をまとめて家計の最適化問題を設定するためラグランジュ関数を次のように定義する。 L = ∫ 0 ∞ e − ( ρ + θ a − g ) t u ( c t ) d t {\displaystyle L=\int _{0}^{\infty }e^{-(\rho +\theta a-g)t}u(c_{t})dt} + λ [ k 0 + ∫ 0 ∞ δ t e g t w t d t − ∫ 0 ∞ δ t e g t c t d t ] {\displaystyle +\lambda {\bigg [}k_{0}+\int _{0}^{\infty }\delta _{t}e^{gt}w_{t}dt-\int _{0}^{\infty }\delta _{t}e^{gt}c_{t}dt{\bigg ]}} 各 t {\displaystyle t} 時点の c t {\displaystyle c_{t}} についての1階の条件は次のとおり(効用関数 u {\displaystyle u} の定義をつかう)。 e − ( ρ + θ a − g ) t c t − θ = λ δ t e g t {\displaystyle e^{-(\rho +\theta a-g)t}c_{t}^{-\theta }=\lambda \delta _{t}e^{gt}} この式の対数をとって時間微分して整理すると次のオイラー方程式を得る(割引因子 δ t {\displaystyle \delta _{t}} の定義をつかう)。 c t ˙ / c t = ( r t − ρ − θ a ) θ − 1 {\displaystyle {\dot {c_{t}}}/{c_{t}}=(r_{t}-\rho -\theta a)\theta ^{-1}} また、資本蓄積は次式で与えられる。 k t ˙ = f ( k t ) − ( g + δ ) k t − c t {\displaystyle {\dot {k_{t}}}=f(k_{t})-(g+{\delta })k_{t}-c_{t}} 以上をまとめると次の3つの式によりこの経済モデルは記述されることになる。 c t ˙ = ( r t − ρ − θ a ) θ − 1 c t {\displaystyle {\dot {c_{t}}}=(r_{t}-\rho -\theta a)\theta ^{-1}c_{t}} (オイラー方程式) r t = f ′ ( k t ) − δ {\displaystyle r_{t}=f'(k_{t})-\delta } (均衡実質利子率) k t ˙ = f ( k t ) − ( g + δ ) k t − c t {\displaystyle {\dot {k_{t}}}=f(k_{t})-(g+{\delta })k_{t}-c_{t}} (資本蓄積式) 均斉成長における値を添え字なしで表わす。均斉成長では次が成り立つ。 r = ρ + θ a {\displaystyle r=\rho +\theta a} k = f ′ − 1 ( r + δ ) {\displaystyle k=f'^{-1}(r+\delta )} c = f ( k ) − ( g + δ ) k {\displaystyle c=f(k)-(g+{\delta })k} また、均斉成長では成長率が有効労働の成長率 g = a + n {\displaystyle g=a+n} で決定される。そして、先に仮定した「技術進歩を伴う割引の仮定」の不等式 ρ > ( 1 − θ ) a + n {\displaystyle \rho >(1-\theta )a+n} に、 g = a + n {\displaystyle g=a+n} と上記の式1 r = ρ + θ a {\displaystyle r=\rho +\theta a} を代入すると r > g {\displaystyle r>g} を得る。すなわち均斉成長で利子率が成長率を上まわる。このことは、 ρ > ( 1 − θ ) a + n {\displaystyle \rho >(1-\theta )a+n} の仮定によって保証される。先に述べたように、この仮定が満たされないと家計効用が無限大に発散し家計の最適化問題を適切に設定できなくなる。 r > g {\displaystyle r>g} は新古典派成長モデルの均斉成長が黄金律 r = g {\displaystyle r=g} の水準に達しないことを意味する。このように新古典派成長モデルが黄金律に達しないことを修正黄金律という。また上記の式1 r = ρ + θ a {\displaystyle r=\rho +\theta a} を修正黄金律ということがある。これを変形黄金則と訳すこともある。 なお、1989年にオリヴィエ・ブランシャールとスタンレー・フィッシャーによって出版された『マクロ経済学講義』では修正黄金律の定義が少し異なっている。ブランシャールらは最適化問題の目的関数の定義で人口を乗じず、また技術進歩を考えない。すると、上記の式1は r = ρ + n {\displaystyle r=\rho +n} という形になる。ブランシャールらはこの数式、すなわち均斉成長で利子率が時間選好率と人口増加率の和で決定されるという数式を修正黄金律と呼んでいる。
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新古典派成長モデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 23:50 UTC 版)
他の条件(貯蓄率、投資率、人口増加率、技術進歩率など)が同じであれば、収穫逓減の法則の下に、貧しい国は豊かな国よりも高い経済成長率を達成するので、長期的には国家間所得格差は無くなると主張する。従って、現実に観察される所得格差は、貯蓄率、投資率、人口増加率、技術進歩率などの差によって説明される。ロバート・ソローによる経済成長モデルを元にした議論で、1980年代半ばまで学界の主流意見であった。
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