抗菌薬の家畜への投与
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 04:58 UTC 版)
最も賛否が割れているのは、成長促進を目的とした経済動物に対する長期の低容量の抗菌薬の使用である。これは動物の治療を目指すための投与ではなく、畜産業における経済的利点から抗菌薬が投与されているのである。しかしながら、低容量の抗菌薬の長期にわたる使用を行うと、抗菌薬が作用しても生き残る細菌が多いなどの理由で耐性菌が出現し易い。そして耐性菌は、畜産動物の間のみならず、食事や環境を通してヒトにも伝播し得る。加えて、畜産業における抗菌薬の使用による経済的な利得も無いか、仮に有ったとしても、耐性菌の出現による損害に比して、小さな額である。 1950年代から、アメリカ合衆国の農家で薬用量に満たない低用量の抗菌薬の家畜への投与が、家畜の体重増加を大幅に早めるために利用されてきた。肥育目的で用いられた抗生物質に分類される抗菌薬としては、例えば、ペニシリン、オキシテトラサイクリン、エリスロマイシン、スピラマイシン、タイロシン、ミカマイシン(英語版)、チオペプチン(英語版)など多岐にわたる。実験動物のマウスへの抗菌薬の低用量投与でも体重増加を示した。生後6か月のヒトの幼児でも抗菌薬の投与と体重増加が関連を示していた。 しかし、このような抗菌薬の使用法は、抗菌薬に対する耐性菌の発生リスクを高める。例えば、バンコマイシンに類似した抗菌薬であるアボパルシンは、グラム陽性菌に効果を示す抗菌薬として家禽やブタの肥育のために使用されるが、アボパルシンを使用した農場ではバンコマイシン耐性腸球菌が検出され易くなる。バンコマイシン耐性腸球菌はイギリス、ドイツ、デンマークの家畜から検出されており、この耐性菌が欧米の医療施設で急速に拡散したと考えられている。 EUは2006年に家畜を肥育させる目的での抗菌薬の使用を禁止した。デンマークでの研究では、家畜の肥育を目的としたアボパルシンの使用禁止のみではバンコマイシン耐性腸球菌の検出率は下がらなかったのに対し、さらにマクロライド系抗菌薬の使用も禁止したところ、バンコマイシン耐性腸球菌の検出率が減少した。これはバンコマイシン耐性遺伝子vanAとマクロライド耐性遺伝子ermBが連鎖して伝播するためだと説明されている。 なお、日本の農林水産省は、家畜において抗菌薬の耐性菌発生リスクの軽減のために「責任ある慎重使用」を求めている。 また、アメリカ食品医薬品局によると、2019年の1年間でアメリカ合衆国内において動物用に販売された、医療用にも使用される抗菌薬の量は6,189,260 kgに上り、その内67%をテトラサイクリン系抗生物質が占めていた。なお、動物に対する抗菌薬の使用量は2015年の9,702,943 kgが最大であり、それと比べると36%減少した。また、動物の種別では牛と豚に対する抗菌薬の使用がそれぞれ2,529,281 kgと2,582,399 kgに及び、これは動物に対する抗菌薬の使用量のそれぞれ41%と42%を占めていた。 「モネンシン」も参照 「ハイグロマイシンB」も参照
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