抗菌薬耐性のメカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 04:58 UTC 版)
抗菌薬の耐性のメカニズムは大きく (1) 抗菌薬の取り込み低下や排出促進による抗菌薬の蓄積防止。 (2) 抗菌薬の分解や修飾による不活化。 (3) 抗菌薬の標的分子の変異や修飾による親和性の低下や過剰生産による抗菌薬の量的無効化に分類される。 抗菌薬の取り込み低下や排出促進による抗菌薬の蓄積防止による耐性機構の例として、緑膿菌の自然耐性が挙げられる。全ての抗菌薬は細菌の外膜を通過し、菌体内で蓄積することで機能を発揮するが、緑膿菌の外膜は抗菌薬の透過性が低く、一般に抗菌薬が効き難い。また、細胞内へ透過したβラクタム系抗菌薬やキノロン系抗菌薬を排出することでも耐性を持つ。 抗菌薬の分解や修飾による不活化は、βラクタム系抗菌薬に対する耐性の主要なメカニズムである。典型的な例としてβラクタマーゼによるβラクタム系抗菌薬に対する耐性機構が知られており、βラクタマーゼはベータラクタム環構造を加水分解することで、ペニシリンを始めとしたβラクタム系抗菌薬とPBPの結合を阻害し、細菌に耐性をもたらす。これまでに数百種類のラクタマーゼが発見されており、一般的にはA、B、C、Dの4種類のクラスに分類される。特にニューデリー・メタロβラクタマーゼ-1 (NDM-1) と呼ばれるβラクタマーゼは他のラクタマーゼと異なり特定の菌種のみならず多数の菌種に共有される、NDM-1の遺伝子を持つプラスミドが他の系統の耐性遺伝子も持つためにプラスミドを保持する細菌が多剤耐性を獲得し、子供の下痢の原因となる大腸菌にも伝播し得るために、環境中に広がり易いといった特徴を持ち、世界的に保健衛生上の脅威として認識されている。 なお、天然物に由来する抗生物質や半合成抗菌薬と異なり、サルファ剤やキノロン系などの合成抗菌薬を分解・修飾する酵素は発見されていない。このような抗菌薬に対する耐性は、抗菌薬の標的分子の変異や修飾による親和性の低下や過剰生産による抗菌薬の量的無効化によって獲得される。例えばキノロン系抗菌薬への耐性はDNAジャイレースやDNAトポイソメラーゼのような酵素をコードする遺伝子に変異が生じた結果として発生する。合成抗菌薬のみならず、天然物に由来する抗生物質や半合成抗菌薬に対する耐性も同様の機構で獲得される場合がある。例えばテトラサイクリンは16SリボソームRNAと結合することでタンパク質合成を阻害する抗生物質であるが、アクネ菌やヘリコバクター・ピロリで16SリボソームRNA遺伝子の変異による耐性獲得が報告された。
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