慣性質量と重力質量
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:10 UTC 版)
「運動方程式」と「万有引力」という、いずれの近代的定式化もニュートンによる貢献が大とされているわけであるが、質量にはそれ自体が持つ性質である「慣性質量」という側面と、重量(重さ)の源としての「重力質量」という側面がある。アインシュタインの等価原理は、重力相互作用による重力と、加速運動による見掛けの重力とが、全く同じものであるとするもので、結果として慣性質量と重力質量もまた等しくなる。また、重力質量については、「質量によって空間に発生する重力場」と「空間の重力場によって質量に発生する力」という2種類の性質が考えられるが、作用・反作用の法則や運動量保存則からはこれらも等しくなる。これまでの実験結果はすべて、これらは常に等しいことを示している。負の質量を持つ仮説上の粒子を考察するにあたり、上述のいずれの質量の概念にあたるものが負の値を持つのかを考慮することが重要である。とはいえ、負の質量に関するほとんどの解析において、等価原理と運動量保存の法則がここでも適用できると仮定されている。 1957年、ヘルマン・ボンディは、Reviews of Modern Physics に掲載された論文にて、質量は正の値と同様に負の値もとりうることを示唆した。彼は、三つ全ての定義において質量が負であっても論理的な矛盾は発生しないが、負の質量を仮定することは、いくつかの直感に反する運動を引き起こすことを指摘した。 ニュートンの第二法則は、次の式で表される: F = m i a {\displaystyle F=m_{i}a\!\;} したがって、負の慣性質量を持つ物体は、押されたのと反対の方向に加速するという奇妙な振る舞いを示す。 つまり、負の物質を"押す力"が電磁力であった場合、通常の物質がその電荷や磁荷に従って運動するのとは反対方向に質量が加速される。例えば、負の慣性質量および正電荷を持つ物体は正の質量および負電荷を持つ物体と反発しあい、正の質量および正電荷を持つ物体と引き付けあうと考えられる。これは、同じ電荷または磁荷の場合は反発しあい、反対の電荷または磁荷の場合は引き付けあう通常の規則とは反対である。 慣性質量を m i {\displaystyle m_{i}} 、受動的重力質量を m p {\displaystyle m_{p}} 、能動的重力質量を m a {\displaystyle m_{a}} とするとき、ニュートンの万有引力の法則は、次の式で表される: m i a = − G m p M a r 2 {\displaystyle m_{i}a=-G{\frac {m_{p}M_{a}}{r^{2}}}} ここで、aは能動的重力質量 M a {\displaystyle M_{a}} を持つ別の物体によって生成された重力場の中に置かれた慣性質量 m i {\displaystyle m_{i}} および受動的重力質量 m p {\displaystyle m_{p}} を持つ物体の加速度、rは二つの物体間の距離、そしてGは重力定数である。 上式より、負の受動的重力質量を持つが正の慣性質量を持つ物体は、正の能動的重力質量を持つ物体に反発し、負の能動的質量を持つ物体に引き付けられることが期待される。しかしながら、慣性質量と重力質量が異なるということは、一般相対性理論の等価原理を破るということになる。慣性および重力質量ともに負かつ等しい物体については、方程式における m i {\displaystyle m_{i}} および m p {\displaystyle m_{p}} の項を相殺することができる。つまり、正の能動的重力質量を持つ物体(いわゆる、地球)の重力場の中での加速度は、正の受動的重力質量および慣性質量を持つ物体の加速度と等しいことを意味する。そのため、負の質量の小物体は他のどんな物体とも同じ速度で地球に向かって落下する。反対に、もし慣性質量および受動的重力質量が等しい小物体が負の重力質量を持つ物体の重力場の中で落下すると、小物体は負の質量の惑星の中心と反対方向に向かって落ちていく。方程式の m i {\displaystyle m_{i}} および m p {\displaystyle m_{p}} の項を相殺すると、小物体の加速度は重力場を作っている物体の負の能動的重力質量 M a {\displaystyle M_{a}} に比例することが分かる。実際、小物体は負の質量の物体に近付くのではなく離れていくように加速されるであろう。小物体の慣性および受動的重力質量がともに正であるか負であるかに関わらずこれは成立する。そのため、等価原理による要請に従って慣性質量および重力質量が常に等しい限り、正の能動的重力質量は普遍的に引力である(負の質量および正の質量の物質ともに正の能動的重力質量を持つ物体に向かって引き寄せられる)。一方、負の能動的重力質量は普遍的に斥力である(負の質量および正の質量の物質ともに負の能動的重力質量を持つ物体と反対方向に斥けられる)。
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