リスト:愛の夢-3つのノクターン
英語表記/番号 | 出版情報 | |
---|---|---|
リスト:愛の夢-3つのノクターン | Liebestraume - 3 Notturnos S.541 R.211 | 作曲年: 1850年 |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例![]() |
|
---|---|---|---|
1 | 第1番 変イ長調「高貴な愛」 As dur | 6分00秒 | No Image |
2 | 第2番 ホ長調「私は死んだ」 E dur | 4分00秒 | No Image |
3 | 第3番 変イ長調「おお、愛しうる限り愛せ」 As dur | 4分30秒 | No Image |
作品解説
もともとはソプラノのための独唱歌曲として書かれた作品であるが、リスト39歳の1850年にピアノ独奏曲として作曲、同年「愛の夢-3つのノクターン」として出版された。この頃のリストの活動に目を向けると、1848年よりヴァイマル宮廷楽長となったことがあげられる。約10年に及ぶ演奏会活動を辞しての就任だったが、これは作曲活動を生活の中心に据える為であった。
ヴァイマルはゲーテやシラー、ヘルダーといった文豪の活躍した町であり、古くはJ.S.バッハも活躍した都市である。リストは宮廷演奏会の運営及び、管弦楽団や合唱団の練習の指導等の職務のかたわら、大きな祝典行事、例をあげれば1849年のゲーテ生誕百周年記念祭などがあるが、それらの為に作曲・発表活動を行った。その中で、ゲーテの戯曲《タッソ》上演のための序曲(後に改訂され、交響詩《タッソ》として1854年に再演。この時「交響詩 Symphonische Dichtung」という言葉が初めて用いられている)や《ファウスト交響曲》(1854年)などが発表されている。
また同時代の作曲家に対しても積極的に支援しており、ベルリオーズやシューマンの諸作品を度々演奏した。1850年には、ヴァーグナーのロマン的オペラ《ローエングリン》の世界初演を指揮している。リストはこれらの作品を演奏をするだけでなく、作品への理解を促す為に著作を発表するなど、非常に精力的に活動した。上記に述べた活動は、管弦楽曲のみならず、数々のピアノ独奏用のパラフレーズとしても実を結んでいる。
以下の解説については、まず独唱歌曲についての情報を記し、その後ピアノ編曲の情報を記してある。
第1番 変イ長調「至高の愛」 / No.1 As dur
ドイツの詩人ヨハン・ルートヴィヒ・ウーラント(1787-1862)の詩による独唱歌曲(S307)として、1850年に初稿が完成し、同年出版される。(第二稿は1854年に完成している) 地上の喜びを喜んで捨て、殉教者となるという内容の詩である。
1850年に作曲・出版されたピアノ編曲版においては、まずもとの歌曲がほぼそのまま置き換えられており、その後高音による装飾的な音型が多用され華やかな印象の中、優美な主題が繰り返されている。
第2番 ホ長調「私は死んだ」 / No.2 E dur
第1番と同様にウーラントの詩による独唱歌曲(S308)として、1846年に完成し1850年に出版。詩の大意は「私は愛の喜びの眼前で死んだのだ。彼女の両腕の中に葬られ、彼女の口づけで目覚め、彼女の瞳の中に天を見た」というもの。
1850年に作曲・出版されたピアノ編曲版では、複縦線で区切られた部分までが、もとの歌曲に対応する箇所であるが、第1番と比べてよりピアニスティックに編曲されている。その後装飾を伴って再び主題があらわれるが、主題の後楽節は和音の連打によって劇的なまでに盛り上げられている。
関連作品として、1865年に完成した「5つのピアノ小品」の第一番 ホ長調が挙げられる。
第3番 変イ長調「おお、愛しうる限り愛せ」 / No.3 As dur
リストの作品の中でも最もポピュラーな小品の一つである。ドイツの詩人ヘルマン・フェルディナント・フライリヒラート(1810-1876)の詩による独唱歌曲(S298)として、1843年末頃に作曲され、その初版は1847年に出版される。第二稿は1850年に完成し、同年出版。
「おお、愛しうる限り愛せ O lieb, so lang du lieben kannst!」から始まる詩は、恋愛のことではなく、人間愛をうたったもの。「あなたがお墓の前で嘆き悲しむその時は来る。だから、愛しうる限り愛しなさい。自分に心を開く者がいれば、その者の為に尽くし、どんな時も悲しませてはならない。そして口のきき方に気をつけなさい、悪い言葉はすぐに口から出てしまう。『神よ、それは誤解なのです!』と言っても、その者は嘆いて立ち去ってしまうだろう」という内容である。
歌曲版との相違は、冒頭主題が再現される直前の箇所である。この部分は歌曲においては「そして口のきき方に… Und huete deine Zunge wohl, …」の一連があてられており、歌のパートとピアノのパートが交互に演奏する形を取る、レチタティーヴォ(オペラ、オラトリオ、カンタータなどに置かれる状況説明や個人の心情を説明する為に用いられる曲、叙唱)風の部分となっている。ピアノ編曲においてはこの箇所が存在しないが、別の旋律を用いて、豊かな装飾に彩られた曲の頂点を形成しており、冒頭主題の再現へと続いている。
- 愛の夢-3つのノクターンのページへのリンク