強度行動障害
行動障害
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行動障害(こうどうしょうがい、英語: Emotional and behavioral disorders, EBD)とは、主に認知症患者や知的障害者が併発させる、飛び出しを含む自傷行動、殴打や噛みつき、物壊、異食、多動、何時間もの号泣や大声、弄便など不潔行為など周囲の者の生活に危害を及ぼす行動等をする他害、特定のモノや習慣に異常な執着などを示す障害[1][2][3][4][5]。感情・行動障害とも言われる[6]。これらの行動が著しく高い頻度と強度で生じており、処方を行なっても改善が見られず、家庭での養育が困難なモノを強度行動障害と言われる[1][4]。強度行動障害は特に、中学生となった思春期の頃に自閉スペクトラム症(ASD。自閉症、アスペルガー症候群)を伴う重知的障害者が併発する傾向がある[4]。
原因
行動障害は、本人の障害特性と環境要因の相互作用によって生じるとされる。
- 感覚過敏(音、光、匂い、温度などへの強い反応)
- こだわり(同一性の保持)
- フラッシュバック(タイムスリップ現象)
- 先の見通しが立たない不安
- 相手の言動や状況の理解困難
- 自己の要求・意思を伝える手段の欠如
- 環境や支援体制との不一致(構造化されていない環境など)
これらの要因により、強いストレスや不安が生じ、行動障害が表出しやすくなる。また、行動障害は、本人がある目的を達成するための手段として現れる場合もあり、その背景には以下の4つの機能(目的)があると考えられている[7]。
- 行動の機能
- 物や活動の要求(好きな物・場所・活動が得られる)
- 注目の獲得(他者から関心を向けてもらう)
- 回避・逃避(苦手な人や活動、不快な状況から逃れる)
- 感覚刺激(自己刺激、退屈の回避)
自らの要求や気持ちを伝えようとしても、言葉でうまく伝えられなかったり、言語以外のコミュニケーションが十分でない場合、自傷や他害などの形でその意思を表現することがある[8]。
強度行動障害
強度行動障害とは、自傷行為、他害行為、強いこだわり行動、物の破壊、睡眠障害、異食行動、多動など、本人や周囲の人々の生活に著しい影響を及ぼす行動が高頻度で発生し、通常の支援では対応が困難なため、特別な配慮や支援が必要とされる状態を指す。「強度行動障害」は医学的な診断名ではなく、その人の行動の状態を示す行政上の用語である[8]。
この概念は、1988年に行動障害児(者)研究会代表の飯田雅子らによって提唱されたものであり、「家庭で通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても、著しい処遇困難が持続している」人々に対して、特別な配慮と支援の必要性が認識されたことに由来する[9][10]。
判定基準
厚生労働省が定めた12の「行動関連項目」に対し、各項目を0〜2点で評価し、合計が10点以上となった場合、行動援護事業、重度訪問介護、重度障害者等包括支援の対象となる。過去半年以上にわたりその行動が継続している場合に実施され、評価は市町村や医師、支援者が行う[11]。
0点 | 1点 | 2点 | |
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1. コミュニケーション | 日常生活に支障がない |
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2. 説明理解 | 理解できる | 理解できない | 理解できているか判断できない |
3. 大声・奇声を出す |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
4. 異食行動 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
5. 多動・行動停止 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
6. 不安定な行動 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
7. 自らを傷つける行為 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
8. 他人を傷つける行為 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
9. 不適切な行為 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
10. 突発的な行動 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
11. 過食・反すう等 |
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週に1回以上の支援が必要 | ほぼ毎日(週5日以上)の支援が必要 |
12. てんかん(主治医の意見書により確認) | 年に1回以上 | 月に1回以上 | 週に1回以上 |
また、以下の「強度行動障害判定基準」の合計点が20点以上となる場合、障害児入所施設における強度行動障害児支援加算の対象となる。
行動障害の内容 | 行動障害の日安の例示 | 1点 | 3点 | 5点 |
---|---|---|---|---|
1. ひどく自分の体を叩いたり傷つけたりする等の行為 | 肉が見えたり、頭部が変形に至るような叩き、つめをはぐなど | 週に1回以上 | 1日に1回以上 | 1日中 |
2. ひどく叩いたり蹴ったりする等の行為 | 噛みつき、蹴り、殴打、髪を引っ張る、頭突きなど、けがにつながる可能性がある行為 | 月に1回以上 | 週に1回以上 | 1日に頻回 |
3. 激しいこだわり | 強く制止しても、自分のこだわりを貫こうとする行動。たとえば、どうしても服を脱ごうとする、外出を拒み続ける、何百メートルも離れた場所まで物を取りに行く、といった行為が繰り返され、止めようとしても制御できない状態 | 週に1回以上 | 1日に1回以上 | 1日に頻回 |
4. 激しい器物破損 | ガラス・家具・ドア・食器・椅子・眼鏡などを壊す。服を無理やり破ろうとするなど、本人や周囲に危険が及ぶ行動 | 月に1回以上 | 週に1回以上 | 1日に頻回 |
5. 睡眠障害 | 昼夜逆転、ベッドにいられずに人や物に危害を加えるなど | 月に1回以上 | 週に1回 | ほぼ毎日 |
6. 食べられないものを口に入れる、過食、反すう等の食事に関する行動 | テーブルをひっくり返したり食器を投げたりする、椅子に座っていられず一緒に食事ができない。また、便や釘、石などを食べて体に異常をきたした「異食」や、特定のものしか食べず健康に影響を与えた「偏食」などが見られる | 週に1回以上 | ほぼ毎日 | ほぼ毎食 |
7. 排せつに関する強度の障害 | 便を手でこねたり、便を投げたり、便を壁面になすりつける。強迫的に排尿排便行為を繰り返すなど | 月に1回以上 | 週に1回以上 | ほぼ毎日 |
8. 著しい多動 | 身体・生命の危険につながる飛び出し、目を離すと一時も座れず走り回る、ベランダの上など高く危険な所に上がるなど | 月に1回以上 | 週に1回以上 | ほぼ毎日 |
9. 通常と違う声を上げたり、大声を出す等の行動 | たえられない様な大声を出す。一度泣き始めると大泣きが長時間続く | ほぼ毎日 | 1日中 | 絶えず |
10. パニックへの対応が困難 | 一度パニックになると、体力的にも手がつけられず、周囲が対応しきれない状態になる | - | - | 困難 |
11. 他人に恐怖感を与える程度の粗暴な行為があり、対応が困難 | 日常生活のちょっとしたことを注意しても、爆発的な行動を呈し、かかわっている側が恐怖を感じさせられるような状況がある | - | - | 困難 |
このほかに、国際的に使用されている指標として、ABC(Aberrant Behavior Checklist、日本語版はABC-J)[14]やBPI(Behavior Problem Inventory)[15]などがある。
軽度への対処
軽度の行動障害かつ年齢10歳以上の場合はポジティブ行動支援 (positve behavior support: PBS) が可能とされている。PBSでは、望ましい行動の増加を目指した支援が行われる。望ましい行動が生起した際、即座に肯定的なフィードバック(賞賛・承認など)を行い、本人にとって望ましい行動の生起頻度を増やしていく[2]。 軽度知的障害者入所更生施設において多飲の行動障害を持つ自閉症患者には、望ましくない行動をとがめるのではなく、望ましくない行動の代わりとなる行動(代替行動)の形成を支援し、本人をサポートするのが良いとされる[16]。定型児に用いる叱咤などを用いない方法の代表格であり、軽度には認知療法・認知行動療法を軸に支援計画を立てていくことが望ましい[2]。
支援
行動障害を有する人への支援においては、障害の特性を踏まえた機能的アセスメントを実施し、問題行動の一因となる環境要因を調整することが基本である。当事者および家族は社会的孤立に陥りやすいため、特定の事業所や支援者だけでなく、行政、福祉、教育や医療など他分野の関係機関が連携し、チーム体制による継続的かつ切れ目のない支援を構築することが重要である[17]。
アセスメント
行動の背景を把握し、支援の方向性を決定する。
- 氷山モデル:表出される行動の背後にある見えない要因を視覚化
- FAST(Functional Analysis Screening Tool):問題行動に影響を与えている可能性のある要因を把握するための16項目からなる質問紙。対象者と日常的に関わっている複数の支援者にインタビューをして記入する[18]。
- ストラテジーシート[19]
- ABC分析:行動のA(Antecedent:先行条件)、B(Behavior:行動)、C(Consequence:結果)を整理[20]
- ABCDEF分析:ABC分析に、D(Deficit:特性のメリ・弱点や苦手なこと)、E(Excess or Extra:特性のハリ・強みや得意なこと)、F(Function:行動の機能)を加えたもの[21][22]。
- スキャッタープロット(行動観察シート):行動が出現する時間帯を把握[23]
環境調整
- 物理的構造化
コミュニケーション支援
- 表出性コミュニケーション
- PECS:絵カード交換式コミュニケーションシステム(絵カードの提示とは異なる)
- AAC:拡大・代替コミュニケーション
- マカトンサイン
- 受容性(理解)コミュニケーション
- 視覚的構造化:スケジュール・活動内容・手順を視覚的に提示(絵カード、写真、実物、文字など)
身体拘束の3原則
日本の介護・医療施設では、身体拘束は原則禁止されているが、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件をすべて満たす場合に限り、例外的に認められている。
- 切迫性:本人または他の利用者等の生命・身体・権利が危険にさらされる可能性が著しく高い場合
- 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がない場合
- 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的措置である場合
身体拘束の実施は施設全体で判断し、利用者および家族への説明と同意が必要とされる。個別支援計画や同意書への記載も義務付けられている[24]。
関連項目
- 応用行動分析 (ABA)
- TEACCHプログラム
- PECS (絵カード交換式コミュニケーションシステム)
- ペアレント・トレーニング
- 行動療法
- 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園
脚注
出典
- ^ a b “強度行動障害支援者研修資料 | 国立障害者リハビリテーションセンター”. www.rehab.go.jp. 2022年9月20日閲覧。
- ^ a b c 『認知行動療法事典』丸善、2019年、164-165頁。
- ^ “厚生労働省:障害保健福祉主管課長会議資料”. www.mhlw.go.jp. 2022年9月20日閲覧。
- ^ a b c “強度行動障害の長男 「社会から見下され、心が折れた」家族介護”. 毎日新聞. 2022年9月20日閲覧。
- ^ 認知症における精神症状と行動障害 対応マニュアル - 鹿児島県医師会
- ^ http://www.rehab.go.jp/kiyou/japanese/22th/22-07.pdf
- ^ ABAスクールTogether (2024年11月5日). “行動の機能 Functions of Behavior”. ABAスクールTogether. 2025年4月20日閲覧。
- ^ a b “東京都教育委員会”. 2025年4月17日閲覧。
- ^ “【資料】強度行動障害に関する研究と支援の歴史 - 国立障害者リハビリテーションセンター”. 2025年4月20日閲覧。
- ^ “» 強度行動障害への支援|弘済学園”. www.kousaikai.or.jp. 2025年4月20日閲覧。
- ^ “重度訪問介護 - 厚生労働省”. 2025年4月18日閲覧。
- ^ “行動援護判定基準と認定調査等項目 - 札幌市”. 2025年4月18日閲覧。
- ^ “「強度行動障害児(者)の医療度判定基準」評価の手引き”. 2025年4月18日閲覧。
- ^ “Aberrant Behavior Checklist”. 2025年4月21日閲覧。
- ^ “BPI-S 問題行動評価尺度短縮版(日本語版)”. 2025年4月21日閲覧。
- ^ 村本 浄司・園山 繁樹 (2010). “知的障害者入所更生施設において多飲行動を示す自閉症者に対するPECSを用いた支援の効果”. 特殊教育学研究 48: 111-122.
- ^ “強度行動障害を有する者の地域支援体制に 関する検討会 報告書”. 2025年4月22日閲覧。
- ^ “機能分析スクリーニングツール日本版 Functional Analysis Screening Tool Japanese version (FAST)”. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “ストラテジーシート - 国立障害者リハビリテーションセンター”. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “静岡市発達障害者支援センター「きらり」 早期発達支援者トレーニング ビギナー編 ~応用行動分析”. 2025年4月23日閲覧。
- ^ “ABCDEF分析シートについて - 児童精神科の門”. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “ABCDEF分析シート(門眞一郎作成)”. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “Asessment-Sheet”. 井上研究室HP. 2025年4月23日閲覧。
- ^ “障害者虐待防止及び身体拘束等の適正化に向けた 体制整備等の取組事例集 - 厚生労働省”. 2025年4月24日閲覧。
外部リンク
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