定期金賠償と一時金賠償について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/07/01 10:55 UTC 版)
「ウェルズ・ジャッジメント」の記事における「定期金賠償と一時金賠償について」の解説
裁判官の見解の中に、定期金賠償と一時金賠償に対する幾つかのコメントが示されており、重要な示唆を提供している。 まず、ロイド裁判官である。「一時金の特性として、将来の金銭的損失という点において、過剰になるか過少になるかのどちらかである。乗数の関連で言えば、被害者は明日亡くなるかもしれないし、平均余命を超えて長生きするかもしれない。また、介護費用も適切に予測したつもりの金額を超えるかもしれないし、もっと安価な治療方法が見つかるかもしれない」と指摘する。ホープ裁判官は、「一時金の計算はある範囲で正確であるかのような印象を与える。しかし、算出結果の正確さは仮定によりどのような数字を用いるかに基づく。それらの仮定は法廷が入手可能な証拠をもとにベストを尽くして創りだしている」と述べている。クライド裁判官は「詳細なテーブルとアクチュアリアルな計算が開発されても、そこには予測における不確実さの要素が残され、それは司法が原告と被告の間に割って入るという期待を、間に合わせの方法で満足させるためだけのことかもしれない。重症の障害を負った被害者の将来介護費用が充分に提供されるかどうかは特に問題で、賠償額の不足は厳しい状況を引き起こしかねない」と述べている。また、「一時金の計算には幾つかの仮定が必要で(略)、ある仮定は被害者の余命が何年であるかという特定の明確な年数であり(略)、出来うる限りの予測をしたところで、仮定は正しかったということが明らかになることはないだろう」としている。これらの裁判官のコメントは、一時金賠償に対する彼らの率直な見解である。当時の英国では、例えば年一回の賠償金支払を終身にわたって行うなどの定期金賠償の考え方がなかったわけではないが、ヒュートン裁判官は「現行の法体系では原告被告の双方が合意しないかぎり、損害賠償は一時金で支払われ、法廷には定期金賠償で支払わせる権限はなかった」と説明している。 このウェルズ・ジャッジメントでは、定期金賠償に言及する箇所が幾つかある。クライド裁判官は「法律上の裁定は原告に対する被告のいかなる継続的な義務も最終的に解決するもので、従って被告にとっては終了したこと(エピソード)とみなすことが許され、原告は賠償金を思うように使う自由が残される。しかし、裁定の結末には不正確という避けがたい要素が、特に将来の時間の長さに関連した事柄についてまわる。定期金賠償はこの問題をある程度解決してくれるかも知れないが、両当事者の同意が必要である」と述べている。しかし、ウェルズ・ジャッジメントが英国の定期金賠償のある意味での出発点ではないかと思えるのは、ステイン裁判官の両当事者の合意がなくても定期金賠償が採用される判決を可能とすべきであると明言した次の指摘があるからである。「多くの比較的軽傷の被害者の場合は損害額が算定されるまでには回復していて、一時金賠償は満足のいくシステムとして機能する。しかし、重症であるがゆえにその影響が続くケースにおいては、一時金賠償の方法では損害額の算定の後に重大な問題を引き起こす。そのようなケースの場合には、裁判官は未来に何が起こるか推量する作業に追い込まれる。必然的に裁判官は将来に何が待ち受けていようと重症被害者が適切に治療されるように努力する。しかし、それは無駄なシステムであると言える。なぜなら時に法廷は後に必要ではなかったと明らかになるほど高額な賠償を強制してしまうからである。もちろん、1996年の損害法第2条(section 2 of the Damages Act 1996)にあるように、定期金賠償の条文があることは事実である。しかし、法廷は両当事者が合意した場合のみ定期金賠償を課すことができる。そのような合意は、全く、または事実上殆ど全く実現したことはない。定期金賠償の行使というのは死語になっている。その解決方法というのはやや直截ではあるが、法廷はそれが適切なケースの場合には一時金ではなく定期金による賠償を課すように命じる権限をもつべきである、ということである。この権限は賠償は金銭的損失に対して完全に償うものであるという原則に見事に一致する。私には、慣れ親しんだ制度を変えることに対する人身賠償案件専門の法律家の嫌悪以外には、さしたる議論もおきないと思える。しかし、裁判官はこの改革を行うことはできない。国会のみがこの問題を解決できる」。
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