しゅうきょうてきぐうい〔シユウケウテキグウイ〕【宗教的寓意】
読み方:しゅうきょうてきぐうい
宗教的寓意
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 05:40 UTC 版)
図像学には多くの宗教的象徴の研究が含まれ、現在でもその内容や意味についての解析、議論が続いている。絵画に描かれたねずみ捕りに着目し、最初にその寓意の研究を行ったのはアメリカの美術史家メイヤー・シャピロ (en:Meyer Schapiro) で、後にドイツ人美術史家エルヴィン・パノフスキーがこの学説を拡張、深化させ、調度品や建具などの詳細な描き込みにも多くの寓意を読み取ろうとした。この学説の有名な議論対象になっているのはほとんどが初期フランドル派の絵画作品である。後世になって他の芸術家が描いた「受胎告知」にも、初期フランドル派の画家たちが最初に「受胎告知」に導入した、何らかの寓意を示すと考えられている対象物が取り入れられている。 聖母マリアの前の卓におかれた巻物と書物は旧約聖書と新約聖書の象徴で、マリアとキリストが聖書に記された予言の成就を担う存在であることを意味する。陶器の花瓶に飾られたユリはマリアの純潔を表す。マリアの後方にあるベンチの手すりの獅子は、おそらく上智の座 (en:Seat of Wisdom) あるいはソロモンの玉座の象徴であり、このような獅子像はヤン・ファン・エイクの『アルノルフィーニ夫妻像』の背景に描かれた椅子にも描かかれるなど、他の絵画にもよく見られるモチーフとなっている。中央パネルの背景には、室内を描いた絵画にはあまり見られない水場が描かれている。おそらくこれは聖職者がミサを司るときに使用する聖水盤 (en:piscina) を意味する。16角形の卓はヘブライの16名の主たる預言者の暗示である。通常の作品では卓は祭壇の役割で描かれ、大天使ガブリエルが聖職者の祭服 (en:vestment) やコープ (en:Cope) 姿で描かれることが多い。ヤン・ファン・エイクの『受胎告知』と同様に、『メロードの祭壇画』にも受胎告知とミサ、聖体の秘跡とを関連付ける様々なものが描かれている。ベンチではなく床に座るマリアは謙遜を意味し、マリアの衣服のひだに反射する光は星のきらめきを表す。これにはマリアを星になぞらえる様々な神学上の意味がこめられている。 右翼パネルには大工の姿で聖ヨセフが描かれている。ねずみ捕りはキリストが将来捕縛されることと、悪魔の誘惑を退けることの象徴で、聖アウグスティヌスの言葉「主の十字架は悪魔を捕えるねずみ捕り、キリストの死によって悪魔は打ち負かされた」の隠喩となっている。ねずみ捕りが窓の外に置かれていることにも意味があり、誰もが見ることができる場所に囮のようにおかれていることが、キリストは悪魔を捕えるための餌であるということを表している。また、ヨセフはワイン作りに使用する道具を製作しており、これはキリストの血たるワインと受難を意味している。
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