地政学ブーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 14:59 UTC 版)
キッシンジャーによる、国際政治を語る用語としての「地政学」の再興は、日本語圏にも影響を与え、1977年には倉前盛通の『悪の論理―ゲオポリティク(地政学)とは何か』、1980年には『新・悪の論理―変転する超大国のゲオポリティク』といった一般書が出版された。また、2000年代以降には地政学を題した一般書の販売が出版が急増し、「空前の地政学ブーム」というべき状況が起きている。高木彰彦は、奥山真司が2010年に出版した『“悪の論理”で世界は動く! 地政学――日本属国化を狙う中国、捨てる米国』を例に挙げながら、日本で出版される地政学の一般書の多くが1980年代以来の地政学を「悪の論理」とする価値観を受け継いだものであることを指摘し、アカデミックな議論が活発化する欧米の状況とは全く異なることを「例外主義」と呼称した。 香川貴志は2016年の人文地理学会学界展望総説において、「我われ地理学に携わる者の多くは,地域研究や政治地理学における地政学への注目」を知っているが、「地理学研究者は、かつて翼賛的な政策に地理学が地政学を以って加担したという苦々しい過去のことも熟知している」ため、地政学について、社会一般の持つそれとはことなる眼差しを向けざるをえないことを述べつつ、「さりながら、改めて地政学を説明する段になると,多くの地理学研究者が自信を持って語れないのも事実であろう」と語っている。柴田陽一は、「香川ら多くの地理学者が『過去』を『熟知している』と言いながら、なぜ『翼賛的な政策』に『加担』し、なぜ『社会の潮流に乗り過ぎ』たのかを、ひいてはそもそも地政学それ自体を、ほとんどの地理学者が『語れない』こと」を強く問題視し、『スパイクマン地理学』の訳者・渡邉公太による「多くの日本人が『地政学』に魅了されながらも,実は沙漠の中の蜃気楼のような、実体のない『地政学』という幻覚に惑わされている」という指摘は多くの地理学者にも当てはまるものであるとした。 また柴田は、日本地理学会が2018年に承認した「新ビジョン(中期目標)」に「第2次世界大戦において軍事関連研究に意図せず巻き込まれたという不幸な歴史をもっている」という一節があることを指摘し、学会という場においても地政学の正確な歴史が認識されていない現状を変えるためにも、戦前日本の地政学史の研究と、英語圏の新しい地政学の吸収が必要であると訴える。
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