吉見説への批判と反論
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「軍慰安所従業婦等募集に関する件」の記事における「吉見説への批判と反論」の解説
「軍の関与の決定的証拠である」とする吉見説に対して、以下に述べるように反論が出されるとともに、吉見説と異なる解釈が提出された。 高橋史朗は『文藝春秋』1996年5月号に発表した「新しい日本の歴史が始まる」において、この文書は軍の威信を保護するため悪質な業者を極力排除するように通達したものであり、「日本軍の関与」というのは、この文章から読み取る限りでは「悪質な業者が不統制に募集して「強制連行」しないように軍が関与していたことを示しているものであり、良い意味での関与である」と主張した。 評論家の小林よしのりは、1997年の『新ゴーマニズム宣言 第3巻』において、この通牒を「内地で誘拐まがいの募集をする業者がいるから注意せよという『関与』を示すものだ。フツーの国語力で読めばそれ以外の意味はない。なんでこれであやまんなきゃならないの?」「この資料の中に一言『内地(日本国内)に於て』と入ってるのをとらえて、『しかし朝鮮や台湾では違っていたのです。違法であっても現地の軍の強い要求があるので、目をつぶって送り出したというのが実情』とするのは吉見氏の恣意的な見解もしくは推測にすぎない」「日本の統治下にない戦地・支那にまでわざわざ日本軍はこのような人道的配慮をするよう通達を出したのだから朝鮮や台湾ではとっくに配慮はなされていたのだろう」「これは違法な徴募を止めさせるものだ」と主張した。 1997年、西尾幹二・小林よしのり・藤岡信勝・高橋史朗共著『歴史教科書との15年戦争』で「人権真理教に毒される日本のマスコミ」を発表し「「内地で軍の名前を騙って非常に無理な募集をしている者がおるから、これを取り締まれ」というふうに書いてある」と述べた。 藤岡信勝も「歴史教科書の犯罪」(1997年、前掲『歴史教科書との15年戦争』所収)で、「慰安婦を集めるときに日本人の業者のなかには誘拐まがいの方法で集めている者がいて、地元で警察沙汰になったりした例があるので、それは軍の威信を傷つける。そういうことが絶対にないよう、業者の選定も厳しくチェックし、そうした悪質な業者を選ばないように-と指示した通達文書だったのです。ですから、強制連行せよという命令文書ではなくて、強制連行を業者がすることを禁じた文書」と主張した。 歴史学者の秦郁彦、評論家の小林よしのり、明星大学教授の高橋史朗らはこの通達は「慰安婦の誘拐まがいの募集を行なう業者がいるから注意せよ」という「関与」を示すものだ」と「よい関与論」を唱え反論し、近現代史研究家の水間政憲もこの指令書は当時の朝鮮社会における誘拐事件や人身売買の実態をふまえれば、悪徳業者を取り締まれと解釈するべきで、日本軍の関与は良識的な関与であったと主張している。 現代朝鮮研究者の西岡力は2007年に「(この通達は)強制連行」の証拠にはならないし、それどころか、日本軍が民間の軍の諒解をとりつけたと詐称して勧誘する悪質業者を取り締まる内容の文書であり、善意の関与である」と解釈している。西岡は「合理的に考えるなら、戦地での民心離間を心配する軍が、一部で抗日独立運動が続いていた植民地朝鮮で慰安婦強制連行を行い、朝鮮における民心離間を誘発するはずがない。吉見教授文書は、権力による強制連行を証明するものではなく、むしろそれがなかったことを示唆するものだった」と述べている。 中川八洋は、この通達は日本軍が実に立派な軍隊であることを証するものであり、「従軍慰安婦」に「軍が関与」したという当り前のことを強調し、「軍が女性を凌辱」という嘘のイメージに連鎖させていく者がいるとし、慰安婦制度という公娼制度のみ目くじらを立てて「女性の人権侵害」とし、現代も続く私娼については沈黙している吉見の姿勢を批判している。 京都橘大学教授の永井和は「通牒が取締の対象としたのは、業者の違法な募集活動ではなくて、業者が真実を告げること、言い換えれば、軍が慰安所を設置し、慰安婦を募集していると宣伝し、知らしめること、そのことであった。慰安婦の募集は密かに行われなければならず、軍との関係はふれてはいけないとされたのである」と述べている。
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