再配分としての税
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 07:09 UTC 版)
税は、国民生活を支えるための重要な国の収入であるが、税には政府の支出を賄う以外に、所得の再配分という役割も持っている。税は、再配分や市場の失敗などに対応するための有効な政策手段となる。この観点から、 貧富の差に応じた税負担を求める「再配分税」 公害対策として、企業・人々の行動を制御するために課税する「環境税」 政府支出を賄うため、税収を増やすことだけを目的とする「税収目的税」 の3つに分類される。 再分配税の典型は、累進的な所得税と相続税である。税収目的税は酒税や消費税などである。 岩田規久男は「最高限界所得税率の引き上げ、所得控除の縮小・撤廃、給付付き税額控除制度の創設、退職金優遇税制の廃止、基礎年金の財源としての目的消費税の導入は、結果の平等をもたらす所得再配分政策である」と指摘している。 八田達夫は、仮に貧富の差が機会ではなく結果に過ぎないのであれば、再配分は不要であり、人頭税をかければよいとしている。現実は、再配分のために税率を上げれば、豊かな人々に租税回避をさせる誘因を与えるとしている。国がどの程度再配分すべきかは、再配分の重要性に関する国民の価値観と、再配分による租税回避効果に対する現状認識とに依存するとしている。 八田は、食品の消費税の非課税は、高所得者の外食・高級食材の消費を促すだけであり、食品だけの非課税は所得の再配分にとって焼け石に水であるが、相続を含めた所得に関しては、累進課税が技術的に可能であるとしているとしている。 竹中平蔵は「格差是正のために税金を集めるわけであり、社会保障の財源に相応しいのは消費税ではなく所得税である。所得税を負担能力に応じて払ってもらわなければ、社会保障のためという理屈は成り立たない。すべての所得階層に同率で課される消費税は格差是正につながらず、、むしろ格差を拡大させる」と指摘している。 経済学者の土居丈朗は「所得税は所得格差是正に有効であるが、経済の活力(効率性)を阻害する。消費税は所得格差是正に有効ではないが、経済の活力を保てる。効率性を重視するのであれば消費税、公平性を重視するのであれば所得税となる。消費税に公平性を求めること自体無理な話である」と指摘している。 高橋洋一は「所得の再分配を目的にしたいのらなら消費税ではなく、稼ぎの多い人が多く負担する所得税・法人税のほうが適している」と指摘している。八田は、所得税率の引き上げは労働供給を抑制するとは考えにくいとしている。 経済学者のミルトン・フリードマンは、格差是正のための累進課税は、現実は格差是正に寄与していないとし、表面むしろ富を保護する税制であるとしている。累進課税は、表面税率では高所得者ほど高税率になるが、負担軽減措置・節税の余地があるため実行所得税率はある所得水準以上になると下がる。フリードマンは代案として「負の所得税」を提言している。 経済学者の大竹文雄は「貧困問題には教育の充実・給付付き税額控除の創設といった、税と社会保障を用いた所得再分配で臨むべきである」と指摘している。 詳細は「負の所得税」を参照 トマ・ピケティは「格差を縮小させるには、累進課税が重要であり、富裕層に対する所得税・相続税の引き上げが欠かせない。課税逃れを防ぐために、国際的に協調して透明性のある金融システムを作ることが必要である」と指摘している。ピケティは、全世界で累進的に最低年0.1%、大富豪の資産には最大で10%の課税を主張している。また、約50万ドル(約5100万円)以上の所得に対しては、80%の課税も示唆している。 一方でピケティの主張について、経済学者のタイラー・コーエンは、何が資本なのかが曖昧であると指摘している。 湯浅誠の研究によると、2010年現在の日本の制度の下、税金だけで再配分政策を行うとかえって貧困層の所得が減ってしまうとしている。
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