共通ロマンシュ語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 02:39 UTC 版)
「de:Rumantsch_Grischun」も参照 共通ロマンシュ語は、上記の五大方言のうち特に活発に用いられているヴァラデル方言、スルミラン方言、スルシルヴァン方言の3つの方言に基づき、これら3方言より最大公約数的な共通項が拾い出される形で人工的に構築されたものである。 正書法は従来グラウビュンデンで行われてきた文学作品の綴り方に準拠したものとなっており、例えば/t͡ɕ/という発音を表記する際に、a、o、uの前においてはウンターエンガディンで使用されていた ch の綴りを、またi、eの前ではスルシルヴァン方言やスルミラン方言で用いられていたtgの綴りをそれぞれ採用している。また、『@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}レツァ・ウッフェル(ロマンシュ語版)の妥協[訳語疑問点]』と称される規則により、cheおよびchiはそれぞれ/ke/、/ki/のように発音される。一方で特定の地方でのみ用いられている発音や文字は排される傾向にあり、エンガディン地方の方言に見られる[ö]や[ü]といった文字や、スルシルヴァン方言に見られる二重母音/ja/のような各地域特有の音韻や文法は共通ロマンシュ語には取り込まれなかった。 2001年、グラウビュンデン州はこの共通ロマンシュ語を州の公式の文章語として採用し、連邦政府ともども刊行物に使用し始めた。民間の刊行物や電子メディアにおいては依然として各地方の方言が優勢であるものの、共通ロマンシュ語も地域を超えた環境下においては徐々に使用頻度が増してきている。例えばLia Rumantschaのウェブサイトやロマンシュ語最大級の辞書Dicziunari Rumantsch Grischun、スイス歴史事典ロマンシュ語版などはロマンシュ語話者全体を対象にしている事から共通ロマンシュ語で記述されている。対照的に文学作品では未だにほとんど方言のみで書かれ、教会においても同様である。 共通ロマンシュ語は今日ではグラウビュンデン州立の学校においても教えられ、地方自治体との共同経営の初等学校においても2000年代には州政府が共通語教育を推進していた。初等学校における教育言語の決定権は地方自治体に委ねられており、2009年度及び2010年度に共通ロマンシュ語を選択した自治体は全体の約半数に当たる40自治体に上った。これらの地域は元々共通ロマンシュ語に非常に近い方言が用いられている地域(州中央部)や文語と口語の乖離が進んでいた地域(ウンターエンガディン地方)、あるいはドイツ語に押されつつあった地域(クール西方ライン川流域)である。 しかしながらこのような共通ロマンシュ語推進政策は各地の方言話者達の間で物議を醸すものであった。2003年にはグラウビュンデン州政府により、2005年以降ロマンシュ語圏で用いる教材としては共通ロマンシュ語によるもののみを新規に発刊する、という決定がなされていたが、これは各地方で反対運動を過熱化させる一方であった。結果、2011年には一度は共通ロマンシュ語導入に踏み切った自治体のうち14の自治体が教授言語を地域の方言に戻すことにしてしまった。これを受けて、2011年12月にはグラウビュンデン州議会はこれまでの方針を改め、再び五大方言に基づくロマンシュ語教材を再導入する決定を行った。州政府評議会委員のマルティン・イェーガーは、学校に自発的に共通ロマンシュ語を取り入れさせようとして実行されてきた州の政策が失敗に終わった事を認めている。2020年7月24日には最後まで共通ロマンシュ語を採用していた地域のひとつスルセス(英語版)においても、住民からの発議の結果として教授言語を地元のスルミラン方言に戻すことを決定した。
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