作中における「ビッグ・ブラザー」
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「ビッグ・ブラザー」の記事における「作中における「ビッグ・ブラザー」」の解説
小説では、「ビッグ・ブラザー」の描かれたポスターや「ビッグ・ブラザー」が出てくるテレスクリーンが描かれるが、本人自身は登場しない。「ビッグ・ブラザー」は45歳くらいの人物としてポスターなどには登場しているが本名は分からず、実在の人物か党が作り上げた架空の人物かどうかは明らかではない。 党のプロパガンダによれば、「ビッグ・ブラザー」はれっきとした実在の人物であり、エマニュエル・ゴールドスタイン(後に「人民の敵」となる)らとともに「党」を結成し、1950年代の核戦争後に社会主義革命を主導したとされる。主人公のウィンストン・スミスは「ビッグ・ブラザー」がいつごろ登場したのか、かつて彼についてどのように報道されていたのかについて記憶をたどろうとするが、「ビッグ・ブラザー」についての報道は常に党により改竄されており、これを反駁する証拠が何一つ手許に残っていないのでどうしても思い出せない。 “偉大な兄弟”が世間の噂にのぼり始めたのは何年頃のことだったか思い出そうと努めた。1960年代のある時期に違いないと思ったが、それを確認することは不可能であった。もちろん党の歴史によれば、“偉大な兄弟”は立党時代から革命の指導者、守護者として登場していた。その功績は次第に過去へ押しもどされ、すでに40年代や30年代の伝説的な世界、つまり資本家が奇妙な円筒形の帽子を被り、大型の光り輝く自動車か両面ガラスの馬車でロンドン市内を乗り回すような時代にまで遡っていた。この伝説がどの程度まで真実なのか、どの程度まで作り話なのか知る由もなかった。ウィンストンは党そのものが創立された年月日さえ思い出せなかった。 革命初期の指導者たちは、1984年の時点では「ビッグ・ブラザー」だけが残っており、地下に潜伏したとされるゴールドスタインを除き、1960年代半ばに反革命の罪ですべて逮捕・粛清されている。エマニュエル・ゴールドスタインが書いた禁書(『少数独裁制集産主義の理論と実際』)によれば、「ビッグ・ブラザー」は国民の愛と恐怖と尊敬を一身に集めるために作りだされた存在である。実際には「ビッグ・ブラザー」のような独裁者がオセアニアを支配しているのではなく、無名の党のエリート(党内局員)たちによる少数独裁制によりオセアニアは支配されている。しかし、国民の恐怖や尊敬といった感情は、組織や集団に対してよりも一個人に対してのほうが起こりやすいため、「ビッグ・ブラザー」のような存在が作りだされたと説明される。「ビッグ・ブラザー」は無謬にして全能の存在であると設定されており、人々はポスターとテレスクリーンを通じてしか接することはない。 彼は永久に死ぬような事はあるまいと我々が信じたとしても無理からぬ話であろう。しかも既に、彼の出生年月に就てはかなり不確実なのである。 テレスクリーンを通じて毎日放送される「二分間憎悪」は、「ビッグ・ブラザー」に対する愛情を示す場となっている。「二分間憎悪」には毎回ゴールドスタインが登場し、国民は彼に対する憎悪を熱狂的にかきたてられスクリーンに向かって怒号を浴びせる。憎悪、復讐心、恐怖、熱狂が高まったところで画面には大きく「ビッグ・ブラザー」が登場する。人々は安堵し、安心感を与えられ、彼の顔がスクリーンから消えた後には「B-B!‥‥B-B!‥‥B-B!」という合唱が起こる。 オセアニアの政府には、戦争をつかさどる「平和省」、物資配給をつかさどる「豊富省」、プロパガンダを行う「真理省」があり、どれも実際の仕事内容と省庁の名は正反対になっている。残る「愛情省」も名に反して逮捕と拷問を行うが、最終的な目的は名の通りである。つまり容疑者を「101号室」での拷問や尋問等を通じて再教育し、愛情省を出るまでには皆が「ビッグ・ブラザー」を心から愛するようにすることが目的である。
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