代表的な無細胞タンパク質合成系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/03 15:06 UTC 版)
「無細胞タンパク質合成系」の記事における「代表的な無細胞タンパク質合成系」の解説
細胞抽出液画分を用いて作成されるウサギ網状赤血球、小麦胚芽、大腸菌による系と再構成無細胞タンパク質構成系であるPURE systemに関して述べる。 ウサギ網状赤血球 1964年に最初に報告された系である。本系は哺乳類細胞由来の系であるため、真核生物由来タンパク質の翻訳後修飾に関する研究などに用いられる。一方で本系によるタンパク質合成量は低いことから、タンパク質調製手段として用いられることはほとんどない。 大腸菌 1961年に開発された。タンパク質合成量が多く、合成速度も早いが原核生物由来の系であることが弱点である。タンパク質合成がMetではなくfMetから開始されること翻訳後修飾を施すことが難しいと行った点である。 コムギ胚芽 コムギ胚芽を用いた無細胞タンパク質合成系は効率が悪い系であった。2000年に愛媛大学の遠藤彌重太(英語版)は従来の系では胚芽に隣接する胚乳より多量のリボソーム不活化タンパク質が混入していることを見出した。リボソーム不活化タンパク質を除去することで無細胞タンパク質合成反応が数十時間持続することが判明した。本系は真核生物由来であり、ウサギ網状赤血球の系よりもタンパク質合成量が高く、また安価であることから真核細胞由来のタンパク質の合成においてファーストチョイスとして位置づけられる。 再構成無細胞タンパク質合成系(PURE system) 2001年に東京大学の上田卓也と清水義宏らはPURE(Protein synthesis Using Recombinant Elements) systemを開発した。彼らは大腸菌の翻訳に関わる31種類の可溶性タンパク質因子を組換タンパク質として調製し、さらに大腸菌の菌体から精製したリボソーム分画とtRNA画分を組み合わせることでタンパク質合成系を試験管内で再構成することに成功した。またこの反応系にリポソームと呼ばれる脂質膜小胞を加えることで膜タンパク質を脂質膜上に合成することが可能である。 膜タンパク質の無細胞タンパク質合成系 理化学研究所の横山茂之らは大腸菌由来のCECF法の無細胞タンパク質合成系を用いて膜タンパク質を合成する方法を2009年に開発した。この方法は透析膜(半透膜)の内側に合成に必要な抽出液や鋳型となるDNAとともに、脂質と界面活性剤を混ぜてできた混合ミセル(脂質分子を界面活性剤で溶かした状態)を混入する。透析が進むと徐々に界面活性剤が透析膜の内側から除去されることで脂質分子が脂質二重膜を形成しリポソームを形成する。合成された膜タンパク質はリポソームに挿入され活性体の状態で生成した。リポソームに界面活性剤を加えることで可溶化することができた。 その後の検討で、透析膜の内側に配置された混合ミセルは時間がたつと脂質と界面活性剤が再配置することが明らかになった。脂質は脂質二重膜の構造をとった膜断片を形成していき、その過程で膜断片にタンパク質が組み込まれる。混合ミセルの界面活性剤は、脂質二重膜片縁端の疎水性部分に結合して水溶液との境界を覆うことによって膜断片を安定化させる。界面活性剤で安定化された脂質二重膜断片は、界面活性剤濃度が高いと小さな膜断片になり、界面活性剤の濃度が低いと大きな断片となる。界面活性剤の濃度を更に低くすると最後にリポソームを形成することが明らかになった。大きな膜断片やリポソームは遠心分離で沈殿するが小さな膜断片は沈殿せず可溶性であった。この検討をもとに旧来の膜タンパク質を大きな膜断片あるいはリポソームに取り込む方法を沈殿性膜断片法(P-MF法)、小さな膜断片に組み込む方法を可溶性膜断片法(S-MF法)と名付けた。S-MF法は界面活性剤による可溶化を行わずに試料を高濃度に生成できる点が特徴である。S-MF法で作られた可溶性の小さな膜断片は、そのままカラムクロマトグラフィー等の通常の精製方法で精製ができる。P-MF法は目的の膜タンパク質を精製するためには界面活性剤を利用する必要がある。この時に使用する界面活性剤によって立体構造や高い活性を損なう可能性がある。
※この「代表的な無細胞タンパク質合成系」の解説は、「無細胞タンパク質合成系」の解説の一部です。
「代表的な無細胞タンパク質合成系」を含む「無細胞タンパク質合成系」の記事については、「無細胞タンパク質合成系」の概要を参照ください。
- 代表的な無細胞タンパク質合成系のページへのリンク