チェイン複体とホモロジー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 06:56 UTC 版)
「ホモロジー代数学」の記事における「チェイン複体とホモロジー」の解説
詳細は「鎖複体」を参照 チェイン複体 (chain complex) はホモロジー代数学の中心的な概念である。それはアーベル群と群準同型の列 ( C ∙ , d ∙ ) {\displaystyle (C_{\bullet },d_{\bullet })} であって、任意の2つの連続した写像の合成が 0 になるという性質をもったものである。 C ∙ : ⋯ ⟶ C n + 1 ⟶ d n + 1 C n ⟶ d n C n − 1 ⟶ d n − 1 ⋯ , d n ∘ d n + 1 = 0. {\displaystyle C_{\bullet }:\cdots \longrightarrow C_{n+1}{\stackrel {d_{n+1}}{\longrightarrow }}C_{n}{\stackrel {d_{n}}{\longrightarrow }}C_{n-1}{\stackrel {d_{n-1}}{\longrightarrow }}\cdots ,\quad d_{n}\circ d_{n+1}=0.} Cn の元は n-チェイン(n-chain)と呼ばれ、準同型 dn はバウンダリ写像 (boundary map) や微分 (differential) と呼ばれる。チェイン群 (chain group) Cn は余分な構造をもっているかもしれない。例えば、ベクトル空間や、固定された環 R 上の加群かもしれない。微分は余分な構造もそれが存在するならば保たなければならない。例えば、線型写像や R-加群の準同型でなければならない。表記の都合のため、アーベル群(より正確には、アーベル群の圏 Ab)に注意を制限しよう。名高いミッチェルの埋め込み定理によって、結果は任意のアーベル圏に一般化される。すべてのチェイン複体はさらに2つのアーベル群の列を定義する。サイクル (cycle) Zn = Ker dn とバウンダリ (boundary) Bn = Im dn+1 である。ただし Ker d と Im d は d の核と像を表す。2つの連続するバウンダリ写像の合成は 0 なので、これらの群は互いの中に次のように埋め込まれている。 B n ⊆ Z n ⊆ C n . {\displaystyle B_{n}\subseteq Z_{n}\subseteq C_{n}.} アーベル群の部分群は自動的に正規である。したがって、n 次 ホモロジー群 (nth homology group) Hn(C) を n-サイクルの n-バウンダリによる商群 H n ( C ) = Z n / B n = Ker d n / Im d n + 1 . {\displaystyle H_{n}(C)=Z_{n}/B_{n}=\operatorname {Ker} \,d_{n}/\operatorname {Im} \,d_{n+1}.} として定義できる。チェイン複体は、すべてのそのホモロジー群が 0 であるときに、非輪状 (acyclic) または完全列、完全系列 (exact sequence) と呼ばれる。 チェイン複体は代数学や代数トポロジーにおいてよく現れる。例えば、X が位相空間であれば、その特異チェイン Cn(X) は標準 n-単体から X の中への連続写像の形式的な線型結合である。K が単体的複体であれば単体的チェイン(英語版) Cn(K) は X の n-単体の形式的な線型結合である。A = F/R がアーベル群 A の生成元と関係式による表現、ただし F は生成元で張られた自由アーベル群で R は relations の部分群、であれば、C1(A) = R, C0(A) = F, そしてすべての他の n に対して Cn(A) = 0 とすることによって、アーベル群の列が定義される。これらのケースではすべて、Cn を複体にする自然な微分 dn が存在する。その複体のホモロジーは位相空間 X、単体的複体 K、あるいはアーベル群 A の構造を反映している。位相空間のケースでは、特異ホモロジーの概念に到達する。これはそのような空間例えば多様体の性質を研究する際に基本的な役割を果たす。哲学的なレベルでは、ホモロジー代数学は、代数的あるいは幾何学的対象(位相空間、単体的複体、R-加群)に伴ったチェイン複体は、ホモロジーは最も容易に得られる部分でしかないが、それらについてたくさんの価値ある代数的情報を含む、ということを教えてくれる。専門的なレベルでは、ホモロジー代数学は複体を巧みに処理しこの情報を抽出するためのツールを提供する。ここに2つの一般的な例がある。 2つの対象 X と Y がそれらの間の写像 f で結ばれている。ホモロジー代数学は f によって誘導される、X と Y に伴うチェイン複体とそれらのホモロジーの間の関係を研究する。これは複数の対象とそれらをつなげる写像の場合に一般化される。圏論の言葉で言えば、ホモロジー代数学はチェイン複体とこれらの複体のホモロジーのさまざまな構造の関手的性質を研究する。 対象 X は複数の記述ができる(例えば、位相空間としておよび単体的複体として)、または、複体 C ∙ ( X ) {\displaystyle C_{\bullet }(X)} は自然でない選択を含む X のある '表現' を使って構成される。X に伴ったチェイン複体の X の記述の変更の効果を知ることが重要である。一般的には、複体とそのホモロジー H ∙ ( C ) {\displaystyle H_{\bullet }(C)} はその表現に関して関手的である。そしてホモロジーは(複体自身でないけれども)選択した表現とは実は独立であり、したがってそれは X の不変量である。
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