シアル酸補充療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/04 06:31 UTC 版)
「遠位型ミオパチー」の記事における「シアル酸補充療法」の解説
縁取り空胞型の遠位型ミオパチーの場合、GNEというシアル酸を合成する酵素群の1つに異常がある。シアル酸はいくつかの化合物の総称であるが、この場合はNeu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)を指す。Neu5AcはUDP-N-アセチルグルコサミンが4段階の酵素反応を経て生合成されるが、GNEは最初の2つの反応を触媒する。患者の体内では生合成反応がUDP-N-アセチルグルコサミンから先に効率よく進めず、結果としてシアル酸が慢性的に不足していると考えられている。事実、患者の筋肉ではα-ジストログリカンやNCAMといったタンパク質のシアリル化(糖タンパク質のシアル酸の含量)が低下していることがわかっている。したがって、シアル酸やその類縁化合物を投与することで、シアル酸の不足を補充しようという試みがなされている。患者の筋生検から培養細胞を樹立し、その細胞にシアル酸を添加すると表現型が正常化したという報告がある。また、モデルマウスに対してGNE代謝産物であるManNAc、Neu5Ac、シアリル乳糖などを投与したところ、ミオパチーの発症をほぼ完全に抑制できることが報告されている。この結果を基に、2010年11月より東北大学神経内科において、シアル酸補充療法の安全性と代謝を調べる医師主導型第1相治験が開始された。シアル酸は食品にも含まれており、食品からのシアル酸摂取がある程度有効である可能性もあるが、どの程度吸収されるのか、また、どの程度のシアル酸を摂取しなくてはならないのかなど不明の点が多く、現時点で、その有効性を議論できる段階にはない。ちなみに、シアル酸を多く含む食品としてはツバメの巣が有名であるが、非常に高価である。シアル酸のサプリメントも市販されているが、ほとんどがツバメの巣由来であり、ツバメの巣自体が高価であることを考えれば当然とも言えるが、シアル酸含有量は極めて僅かである。牛乳を含め、ほ乳類のミルクにはシアル酸が含まれていることが知られている。ヒトの母乳には牛乳の100〜1000倍のシアル酸を含んでおり、シアル酸が乳幼児の脳の発育に重要であるという報告もある。卵のカラザにもシアル酸が多く含まれる。
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シアル酸補充療法
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「遠位型ミオパチー」の記事における「シアル酸補充療法」の解説
縁取り空胞型遠位型ミオパチーについては、現時点で少なくとも2系統のモデルマウスが存在する。これらのうちの一系統(ユダヤ人に多いGNE変異をもつ系統)は、生後数日で腎臓の異常によりほとんどの個体が死んでしまう。妊娠中のマウスにあらかじめN-アセチルマンノサミン(ManNAc)を経口投与しておく、死んでしまう個体が減少するが、筋症状は認められない。日本で作製されたマウスは、日本人患者で2番目に多いミスセンス変異のみを発現するよう工夫されたマウスで、生後20週以降に筋力低下と筋萎縮を、30週以降に筋線維内アミロイド沈着、40週以降に縁取り空胞が確認される。加えて、生下時よりシアリル化が低下し、クレアチンキナーゼも軽度上昇している。現状では、臨床・病理・生化学的特徴をほぼ正確に反映する唯一のモデルマウスである。GNEはUDP-N-アセチルグルコサミンからN-アセチルマンノサミン(ManNAc)を合成し、さらにこれをリン酸化するという2つの反応を触媒する。一見、ManNAcを投与してもリン酸化されないかのように思えるが、細胞内にはManNAcをも基質とするGlcNAcキナーゼが大量に存在するため、例えGNEが完全に欠損している細胞においてさえもManNAcのリン酸化がスムーズに進むことが確認されている。事実、上記の日本グループが作製したモデルマウスにManNAc、シアル酸、シアリル乳糖などを投与したところ、ほぼ完全にミオパチーの発症を防ぐことが出来たことが報告されており、少なくともモデルマウスにおいては、シアル酸補充療法が有効であることが確認されている。この結果を踏まえ、2010年11月より東北大学神経内科において、医師主導型治験の形式で、シアル酸製剤の安全性や代謝を確認する第1相試験が開始された。2016年2月東北大学神経内科は医師主導型治験形式での第Ⅱ/Ⅲ相試験の実施が承認され開始すると発表した。
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