カスパーゼカスケード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 13:55 UTC 版)
カスパーゼカスケードには、 ミトコンドリアからの刺激で、イニシエーター(カスパーゼ-9)→エフェクター(-3、-6、-7)の順に活性化される経路 細胞膜表面の受容体からの刺激で、イニシエーター(-8、-10、-2)→エフェクター(-3、-6、-7)の順に活性化される経路 小胞体からの刺激で、イニシエーター(-12?)→エフェクター(-3、-6、-7)の順に活性化される経路 イニシエーターを経ずに、ストレス誘導分子が直接エフェクター(-3、-6、-7)を活性化する経路 が存在する。 それぞれについて、それを担当するイニシエーターカスパーゼは異なるが、いずれの場合も最終的には同様に、エフェクターカスパーゼである、カスパーゼ-3、-7、-6が活性化される。 いずれのカスパーゼカスケードにおいても、シグナル伝達の基本的なメカニズムはほぼ同様である。 カスパーゼは最初は不活性な前駆体であるプロカスパーゼとして合成され、このかたちで細胞内に存在している。アポトーシスを誘導する刺激が細胞に加わると、イニシエーター・カスパーゼのプロドメインに結合する分子との相互作用が変化し、その結果、イニシエーター・カスパーゼ分子が集合体を形成する。この集合体の形成によって、同じイニシエーター・カスパーゼによる切断を受け、活性型へと変化する。活性化したイニシエーター・カスパーゼは、次にエフェクター・カスパーゼを切断して活性型に変化させる。そしてエフェクター・カスパーゼは最終ターゲットになる、いくつかの細胞内タンパク質を切断・分解する。これらの標的タンパク質には、細胞が形を保ち生存していくために重要な役割を持つものが含まれており、これらが分解されることが最終的に細胞の死につながると考えられている。このカスケードが開始すると正のフィードバックが働き細胞はアポトーシスを避けられなくなる。例えば活性化されたカスパーゼ-9はカスパーゼ-3を切断・活性化し、このカスパーゼ-3はターゲットのタンパク質を切断する一方でカスパーゼ-9をさらに切断し、カスパーゼ-3自身をさらに活性化することになる。 ミトコンドリアからの経路 DNA損傷などのストレスは、アポトーシス誘導分子p53やアポトーシスを調節するBcl-2ファミリータンパク質を介して、ミトコンドリアの膜電位を変化させ、その結果、ミトコンドリアからシトクロムcが漏出する。これが細胞質に存在するApaf-1やカスパーゼ-9と結合して、アポトソーム(apoptosome)と呼ばれる集合体を形成する。これによって活性化されたカスパーゼ-9が、下流のエフェクターを活性化していく。 細胞膜の受容体からの経路 Fasリガンド、TNFなどのデスリガンドと呼ばれる細胞外タンパク質が、それぞれに対する細胞膜上の受容体(FasおよびTNF受容体)と結合する。これらの受容体の細胞内領域には、アダプター分子であるFADDが結合しており、さらにカスパーゼ-8がプロドメインを介してFADDと結合している。受容体へのリガンドの結合によって、まずプロドメインが切断され、さらに自己切断によって活性化されたカスパーゼ-8が下流のエフェクターを活性化していく。また、カスパーゼ-8によって活性化されるBidと呼ばれるタンパク質はカスパーゼ-9を活性化する経路にも作用する。この経路では、カスパーゼ-8以外に、アダプター分子を介してデスレセプターと結合するカスパーゼ-10や-2もイニシエーターとして働く。 小胞体からの経路 細胞内に異常なタンパク質が蓄積したり、糖やカルシウム代謝などに異常を生じると、細胞は小胞体ストレス応答と呼ばれるストレス応答を行って対処するが、ストレスが過剰な場合にはアポトーシスが誘導される。マウスの神経細胞などでは、この過程でカスパーゼ-12が活性化されてイニシエーター・カスパーゼとして働き、カスパーゼ-9、あるいはカスパーゼ-3などのエフェクター・カスパーゼを活性化する。この小胞体関連アポトーシスは、ヒトにも見られるがその機構はまだよく判っていない。 エフェクターを直接活性化する経路 細胞傷害性T細胞が放出するグランザイムBが、同様に放出されるパーフォリンなどの働きによって、細胞質内に侵入すると、カスパーゼ-3、-7などのエフェクター・カスパーゼを直接活性化していく。またグランザイムBはカスパーゼ-8、-10などのイニシエーター・カスパーゼを活性化する経路にも作用する。 カスパーゼの最終ターゲットには、核内のラミン、ICAD/DFF45、ポリ(ADP)リボースポリメラーゼ (PARP)、PAK2などがあり、これらの分解によって細胞がアポトーシスを起こすと考えられているが、アポトーシスに伴う細胞の生化学・形態学的変化にそれぞれどの程度寄与しているかは明らかでない。 ただしICAD/DFF45については、これが通常時にはDNA分解酵素CAD(Caspase Activated DNase)を抑制する機能をもつことが明らかになっている。カスパーゼによってICAD/DFF45が不活性化されると、その抑制を逃れたCADが核内に入り、DNAを断片化することで細胞死が誘導されると考えられている。アポトーシスに特徴的な現象の1つである、DNAラダー(梯子:決まった長さで切れるので電気泳動すると梯子状になる)の出現には、この機構が関与していると考えられている。
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