エニグマの配線の復元
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 19:52 UTC 版)
「マリアン・レイェフスキ」の記事における「エニグマの配線の復元」の解説
エニグマ暗号を破るための第一段階としてレイェフスキが行ったのは、エニグマの最も重要な要素である暗号化ローターの配線を復元することであった。このために、まず、暗号の解析に純粋数学の理論を当てはめた。それまで暗号を破る際には、ある言語で書かれた文章での特定の文字の出現頻度を分析する(頻度分析)というように、言語学と自然言語に対する統計学が用いられていた。レイェフスキはそれに加えて群論、とりわけ置換群の性質を用いた。この数学的手法と、フランスの情報部員ハンス=ティロ・シュミットが提供する機械の構造に関する情報を使って、暗号化ローターと反転ローターの内部配線を復元することに成功した。アメリカの歴史家でありジャーナリストであるディヴィッド・カーンによれば、「この課題を解決したことは驚くべき成果であって、この成果がレイェフスキを史上最も偉大な暗号研究者の殿堂へと押し上げた」。ある数学の教授が言った「戦争に勝った定理」をレイェフスキは使って成果を挙げたわけである。 具体的には、暗号化ローターの配線を復元するためにレイェフスキは毎日傍受している暗号化文書の最初の6つの文字について、まず調査を始めることにした。この部分は、後に続く文書を暗号化するための鍵を相手に伝えている部分である。同じ鍵で暗号化する文章の量は少ないほど安全なので、オペレータは通信する度にその場限りに選んだ3文字の鍵をつかって通信を暗号化することになっていた。この手順は導入手順とよばれ、手順はコードブックから読み取った日鍵に対応するローターのセッティングを使用して行う。ローターの初期設定は、例えば、AOHというように、コードブックのとおりにオペレータによって設定される。次に、例えば、EINのようにその場限りの組み合わせを選ぶ。この文字の組み合わせがこの通信自身の鍵となる。この通信鍵は、間違いを防ぐために2度繰り返してEINEINというように入力される。これがコードブックの日鍵で暗号化されると、XHTLOAのようになる。これが暗号化された通信の最初に発信される。通信鍵の送信後、オペレーターはローターの位置をEINに合わせ、通信文を入力し暗号化する。ドイツ軍にとっては不幸なことに、同じ3文字の文字列が2度繰り返されている6文字のヘッダーがエニグマの最大の弱点となり、記号同士を関連づける巡回置換を特定することに役立った。レイェフスキは1文字目と4文字目、2文字目と5文字目、3文字目と6文字目が、元の平文では同じ文字であることを知っていたからである。このことはエニグマ暗号を破る次のステップとなる。 レイェフスキは、この組をつくる文字同士の関係を調べることにした。例えば、もし同じ日に発信された(つまり、同じ日鍵でヘッダーを暗号化した)4つの通信文がそれぞれ次のような記号列で始まっていたとする。BJGTDN、LIFBAB、ETULZR、TFREII。これらの通信ヘッダーの1文字目と4文字目をみると、つながりがあることがわかる。BはTにつながっている。 LはBに、 EはLに、TはEにつながっている。充分な量の暗号文を分析すると次のようなことがわかるわけである。BはTにつながり、次はEに、その次はLに、さらに次はBにつながっている(模式図を参照)。この場合は「長さ4の巡回置換」である。というのも、4回の置換で元の文字に戻ってくる巡回置換だからである。同じ日の暗号通信で、A → {\displaystyle \rightarrow } F → {\displaystyle \rightarrow } W → {\displaystyle \rightarrow } Aのような短い「長さ3の巡回置換」も見つかることがある。充分な量の暗号通信が手に入れば、全てのアルファベットに関するその日の置換を特定することができた。その日一日はそれらの置換は一定しており、次の日になると変化するのであった。同じ分析を、2文字目と5文字目、3文字目と6文字目の組についても行うことができる。 このことに加えて、エニグマのオペレーターが通信文のヘッダーに、簡単に推測できる文字の組み合わせ(恋人の名前やイニシャル、ABCや、キーボード上で隣り合っているJKLなどの文字)を使用する傾向にあるので、レイェフスキは次にどんな6文字の順列が出てくるかわかるようにさえなった。
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