りんご
★1.西欧の物語に頻出する果物。生命のりんご・黄金のりんご。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章 ヘラクレスが、ヘスペリスたち(ヘスペリデス)の所へ黄金のりんごを取りに行く。ヘラクレスは、巨人アトラスが背負っている天空を一時自分の肩に載せ、アトラスにりんごを取りに行かせる。アトラスは、りんご3つを取って来てヘラクレスに渡す。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章 争いの女神エリスは、ヘラ・アテナ・アフロディーテの3女神の中に、美の賞としてりんごを投じた→〔三者択一〕2。
『詩語法』(スノリ)第2~3章 オーディンたちアース神族は、女神イドゥンの持つりんごを食べて若さを保っている。ある時イドゥンが巨人にさらわれ、神々は見る間に白髪になり老衰したが、やがてイドゥンを連れ戻し、再び若返った。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ラインの黄金」 ヴォータンを初めとする神々は、女神フライアが栽培する黄金のりんごを毎日1つずつ食べて、永遠の若さを保つ。ある時、巨人ファゾルト・ファフナー兄弟がフライアを連れ去ったため、神々はたちまち灰色の髪となって老い衰える。神々は莫大な黄金を巨人の兄弟に与えてフライアを取り戻し、若さを回復する。
『怪鳥(ばけどり)グライフ』(グリム)KHM165 病弱な王女に、ある人が「りんごに似た果物を食べれば、丈夫になる」と予言する。父王は「王女を健康にする果物をもたらした男を婿にする」と、布告する。百姓の3人の息子たちが王女と結婚するために出かけるが、長男・次男は失敗し、三男ハンスが、黄金のりんごを王女にもたらす。王女は健康になり、ハンスは王女と結婚して王になる。
『火の鳥』(ストラヴィンスキー) 悪魔コスチェイの城の庭に黄金のりんごの木があり、火の鳥が枝から枝へ飛び移って遊ぶ。夜には、城に幽閉された姫君たちが庭に出、木を揺すって黄金のりんごを落とし、それを投げ合って遊ぶ。
*→〔弓〕1aの『ヴィルヘルム・テル』(シラー)第3幕第3場。
*アダムとイブが食べた禁断の木の実は、後世には「りんご」と解釈されるようになる→〔妻〕1の『創世記』第3章。
★2.命を奪うりんご。
『アーサーの死』(マロリー)第18巻第3~8章 アーサー王妃グィネヴィアが、騎士たちを招いて晩餐会を催す。ピネル卿が以前からガーウェインを憎んでおり、果物好きのガーウェインを殺そうと、りんごに毒を塗る。ところが別の騎士がそのりんごを食べて死んでしまう。殺された騎士の縁者マドールは、宴の主催者グィネヴィアの責任を問い、告発する〔*魔法使い「湖の乙女」が宮廷へ来て、「真犯人はピネル卿」と教える〕。
『白雪姫』(グリム)KHM53 継母(妃)が百姓女に化け、白雪姫にりんごを勧める。毒など入っていないことを示すために、継母はりんごをまっぷたつに切り、皮が白っぽい半分を自分が食べて、皮が赤くておいしそうな半分を白雪姫に与える。このりんごは、赤い方だけに毒があるようにこしらえてあったので、白雪姫はたちまち死んでしまう(*→〔毒酒〕3の、銚子の中に隔てを仕掛け、片側に普通の酒、片側に毒酒を入れる物語と、同様の手口である)。
『変身』(カフカ) 青年グレゴール・ザムザは毒虫に変身し、自室に閉じこもる。グレゴールの父親は毒虫の姿を嫌悪して、りんごを投げつける。りんごはグレゴールの背中にめりこみ、それが彼の致命傷となる→〔変身〕3a。
*りんごを食べようとして殺される→〔継子殺し〕1の『びゃくしんの話』(グリム)KHM47。
*→〔心〕10の『子どもたちが屠殺ごっこをした話』(グリム)は、りんごが子どもの命を救った、といってよいだろう。
『林檎』(林房雄) 漁業人夫たちが、冬の北海で鮭を獲(と)る。1人あたり鮭35本の取り分をもらって、いよいよ帰航という時、野菜不足のため、人夫たちは壊血病になって苦しむ。船長が、隠しておいた林檎樽を持ち出し、「林檎と鮭を交換しろ」と言う。10銭の林檎1つを、2円50銭の鮭3匹と取り替えるのだ。人夫たちは、陸へ戻った時は元の杢阿弥のすっからかん。林檎のおかげで、命だけ助かったのだ。
『太平広記』巻82所引『史遺』 王徳祖の家にある林檎樹に大きな瘤ができ、3年後、瘤が朽ち爛れて男児が生まれた。王徳祖が男児を養育すると、7歳になって言葉を発し、「誰が育ててくれたのか」と問うた。男児は成長後、姓を王、名を梵志とした。
Weblioに収録されているすべての辞書からりんごを検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書からりんご を検索
- りんごのページへのリンク