その他の散布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 03:52 UTC 版)
蒴果から放出されて風によって散布(風散布)される種子には、以下のような特徴をもつものが見られる。 種子に毛が生えている … ヤナギ(ヤナギ科; 下図6a)、ヤナギラン(アカバナ科)、ムクゲ、ワタ属(アオイ科; 下図6b)などに見られる。 種子に翼が発達している … ヤマノイモ(ヤマノイモ科)、ユリ(ユリ科; 下図6c)、ギボウシ(キジカクシ科)、アロエ(ツルボラン科)、サルスベリ(ミソハギ科)、キリ(キリ科; 下図6d)、ツルニンジン(キキョウ科)などに見られる。 種子が微小である例 … ラン科(下図6e)やイチヤクソウ(ツツジ科)、ナンバンギセル(ハマウツボ科)などは極めて微小な種子を大量に放出し、このような種子は埃種子(ほこりしゅし)ともよばれる。これほど微小ではないが、ショウジョウバカマ(シュロソウ科)、チダケサシ(ユキノシタ科)、ノリウツギ(アジサイ科)、ツツジ(ツツジ科)なども小さな種子を放出する。 6a. ヤナギ属(ヤナギ科)の種子 6b. ワタ属(アオイ科)の蒴果と種子の毛 6c. ユリ属(ユリ科)の種子 6d. キリ(キリ科)の蒴果と種子 6e. バンダ属(ラン科)の蒴果と多量の種子 キショウブ(アヤメ科; 下図6f)やハマオモト(ヒガンバナ科)、グンバイヒルガオ(ヒルガオ科; 下図6g)、アサザ(ミツガシワ科)などの蒴果は水に浮かぶ種子を放出し、これが水面を流れて散布される(水流散布、海流散布)。 ネコノメソウ属(上図6h)、チャルメルソウ属(ユキノシタ科)、ユウゲショウ(アカバナ科)、フデリンドウ(リンドウ科; 上図6i)などの蒴果は、上方に裂開する(水分や湿度上昇を感知して開くものもある)。これは、雨粒を受けて種子をはじき飛ばす(雨滴散布)ためであると考えられている。 6f. キショウブ(アヤメ科)の裂開した蒴果と種子 6g. グンバイヒルガオ(ヒルガオ科)の裂開した蒴果と毛が密生した種子 6h. ネコノメソウ属(ユキノシタ科)の裂開した蒴果と種子 6i. フデリンドウ(リンドウ科)の裂開した蒴果と種子 オオバコ(オオバコ科)の果実は果皮がふた状にとれる蓋果であるが、種子表面は水に濡れると粘質になり、動物などに付着する。これによって種子散布(付着散布)されると考えられている。 蒴果の中には、裂開して種子が露出するがその場に留まり、この種子が鳥など動物に食べられて散布されるものがある(被食散布)。このような例として、ヤブラン属やジャノヒゲ属(キジカクシ科; 下図6j)、ニシキギ科(下図6k)、ナンキンハゼ、アカメガシワ(トウダイグサ科; 下図6l)、トベラ(トベラ科; 下図6m)などがある。このような種子は、目立つ色(赤、黒など)をして種皮が肉質化、または仮種皮(種衣)が発達するものが多い。可食部が液質で水分を多く含むものから、乾性で脂質を多く含むもの、さらに可食部がほとんどなく動物を騙していると考えられているものもある。また裂開した果皮も色づいて視認効果を高めているものもある(下図6k)。 シラタマノキ属(ツツジ科)では、蒴果が多肉化した萼で覆われており(下図6n)、これが可食部となって被食散布される。 6j. ジャノヒゲ(キジカクシ科)の種子 6k. マユミ(ニシキギ科)の裂開した蒴果と種子 6l. ナンキンハゼ(トウダイグサ科)の種子を食べるメジロ 6m. トベラ(トベラ科)の裂開した蒴果と種子 6n. シラタマノキ(ツツジ科)の蒴果は多肉化した萼で覆われる トチノキ(ムクロジ科)やヤブツバキ、チャノキ(ツバキ科)の蒴果は、堅い種皮で覆われた大型の種子を放出する(下図6o, p)。このような種子は、ブナ科などの堅果と同様に、動物に収穫・輸送・貯蔵されて食べ残しが散布されると考えられている(貯食散布)。 カンアオイ(ウマノスズクサ科)やカタクリ(ユリ科)、スズメノヤリ(イグサ科)、クサノオウ(ケシ科)、スミレ(スミレ科)などの蒴果から放出される種子はエライオソームとよばれるアリが好む物質からなる構造をつけており(下図6q)、アリによって散布される(アリ散布)。上記のようにスミレ属は果皮の収縮による自動散布も併用するが、アオイスミレの果実は射出能をもたず、代わりに種子のエライオソームが非常に大きい。 6o. トチノキ(ムクロジ科)の裂開した蒴果と種子 6p. チャノキ(ツバキ科)の裂開した蒴果と種子 6q. エライオソームをつけたスミレ属(スミレ科)の種子
※この「その他の散布」の解説は、「蒴果」の解説の一部です。
「その他の散布」を含む「蒴果」の記事については、「蒴果」の概要を参照ください。
- その他の散布のページへのリンク