「戦力」についての政府解釈の変遷
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「日本国憲法第9条」の記事における「「戦力」についての政府解釈の変遷」の解説
憲法学者からは「戦力」概念について政府見解の変遷が指摘されることがある。憲法制定当初、政府は、憲法は一切の軍備を禁止し、自衛権の発動としての戦争をも放棄したものとしていた。しかし、朝鮮戦争に伴う日本再軍備とともに、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは憲法上禁止されておらず、自衛隊は必要最小限度の「実力」であって、憲法で禁止された「戦力」には当たらないとするに至っている。 1946年6月、吉田茂内閣総理大臣「自衞權に付ての御尋ねであります、戰爭抛棄に關する本案の規定は、直接には自衞權を否定はして居りませぬが、第九條第二項に於て一切の軍備と國の交戰權を認めない結果、自衞權の發動としての戰爭も、又交戰權も抛棄したものであります」(1946年(昭和21年)6月26日、帝国議会衆議院本会議における原夫次郎議員に対する吉田茂首相の答弁) 「戰爭抛棄に關する憲法草案の條項に於きまして、國家正當防衞權に依る戰爭は正當なりとせらるるやうであるが、私は斯くの如きことを認むることが有害であると思ふのであります」(1946年6月28日、帝国議会衆議院本会議における野坂参三議員に対する吉田茂首相の答弁) 1950年7月、吉田茂内閣総理大臣「(警察予備隊の設置)の目的は何か、これは全然治安維持であります。秩序を維持するためであります。その目的以外には何ら出ないのであります。これが、あるいは国連加入の條件であるとか、用意であるとか、あるいは再軍備の目的であるとかいうようなことは、全然含んでおらないのであります。現在の状態において、いかにして現在の日本の治安を維持するかというところに、全然その主要な目的があるのであります。従つて、その性格は軍隊ではないのであります。また軍隊によつていわゆる国際紛争を解決するというのは軍隊の目的としての一つでありますが、この警察予備隊によつて国際紛争を解決する手段とは全然いたさない考であります」(1950年(昭和25年)7月29日、衆議院本会議における佐瀬昌三議員に対する吉田茂首相の答弁) 1952年11月、吉田茂内閣の政府統一見解「戦力とは、近代戦争遂行に役立つ程度の装備・編成を備えるものをいう。戦力に至らざる程度の実力を保持し、これを直接侵略防衛の用に供することは違憲ではない」(1952年(昭和27年)11月、吉田茂内閣の政府統一見解) 1953年7月、木村篤太郎保安庁長官「第九条第二項の戦力とは何ぞやということになりますると、結局近代戦争を遂行し得るような装備編成を持つた大きな力であると、こう解釈する。そこで外国へ向つて侵略戦争を行い得るような力は往々にしてこの戦力に該当するような大きな力であると、我々はこう考えておる。従いまして、必ずしも侵略戦争に用いる力が即戦力とは申されませんが、外国に対して侵略戦争をするような力は往々にして戦力に該当するものであろうと、こう考えております」(1953年(昭和28年)7月25日、参議院予算委員会における亀田得治議員に対する木村篤太郎保安庁長官の答弁) 1954年4月、木村篤太郎保安庁長官「常々申し上げます通り、軍隊とは何であるか、引続いて戦力とは何であるかということについては、確たる一定の定義というものはないのであります。御承知の通り、わが憲法においては自衛力は否定されていないのであります。一国独立国家たる以上は、外部からの不当侵略に対してこれを守るだけの権利があります。その権利の関係であります力を持つことは当然の事理であります。安保条約においてもまた国連憲章五十一条においてもこれはひとしく認めるところであります。ただ憲法第九条第二項において戦力を持つことを否定されておるのであります。現段階においてはいわゆる戦力に至らざる程度においての自衛力を持とうというのがわれわれの念願とするところであります。しこうして今御審議を願つております自衛隊法による自衛隊にいたしましても、もちろん外部からの不当侵略に対して対処し得る実力部隊、これを軍隊といい、また軍隊といわなくとも一向さしつかいないのであります。要は戦力に至らない実力部隊、われわれはこう考えておる次第であります。」(1954年(昭和29年)4月27日、衆議院内閣委員会における田中稔男議員に対する木村篤太郎保安庁長官の答弁) 1954年12月、第1次鳩山一郎内閣の政府統一見解「憲法第九条は、独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている。従つて自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない。自衛隊は軍隊か。自衛隊は外国からの侵略に対処するという任務を有するが、こういうものを軍隊というならば、自衛隊も軍隊ということができる。しかしかような実力部隊を持つことは憲法に違反するものではない」(1954年(昭和29年)12月22日、衆議院予算委員会における福田篤康議員に対する大村清一防衛庁長官の答弁)
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