ターザン・シリーズ ターザン用語(類人猿の言語)

ターザン・シリーズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/31 23:15 UTC 版)

ターザン用語(類人猿の言語)

ハヤカワ文庫版では、「類人猿(マンガニ)の言語」を「ターザン用語の手引」として収録してあるものがある(#ハヤカワ版と創元版(邦訳順)参照)。その中から、主なものを五十音順で記述する。なお、翻訳者により、表記ゆれが存在する。また、マンガニの言語は、小ヒヒも使用している。

ウシャ
風。
カ・ゴダ
降参。状況により、「降参するか?」と「降参する」に使い分けられる。
クレエグ・アー!
警戒を促す際に使用。例、「警戒しろ!」。
黒。
ゴマンガニ
黒人
ゴロ
サボー(サボル)
ライオン
ザン
皮(肌)。下記「ター」と合わせると「白い肌」。ターザンの名前の由来。
シェエタ
スカ
ハゲタカ
タル(ター)
白、または明るい。
「ターザンの双子(The Tarzan Twins)」とあだ名される少年の一人ドックは、髪の色が明るいため「ターザン・タル(白)」と呼ばれる(もう一人のディックは、髪の色が黒いため「ターザン・ゴ(黒)」と呼ばれる)。
タルマンガニ
白人
ダンゴ
ハイエナ
タンター(タントル、タントー)
ヌマ(ニューマ)
雄ライオン。
バッコ
シマウマ
バラ
鹿
バル
戦い。
バルー
黄金
バルウ
赤ん坊
パンバ
ネズミ
ピサ(ピサー)
ヒスタ(ヒスター)
ブト(ビュート)
サイ
ボルガニ
ゴリラ
ホルタ
マヌ
小猿。
マンガニ
類人猿。

備考

参考作品

バローズ自身が明かしたところによると、以下の3点が参考になっている[35]

  1. ロムルスレムスローマ帝国の建国伝説)
  2. 大衆雑誌で読んだ短編(難破した船員が、アフリカに辿り着き、雌の類人猿から愛される)
  3. 小説『ジャングル・ブック』(ラドヤード・キップリング作)

3.に関しては、一部のバローズ・ファンは否定していた[36]が、リチャード・A・ルポフの調査で明らかになった[37]カリフォルニア大学のイタリア語教授だったルドルフ・アルトロッキがバローズ自身に問い合わせ、1937年3月31日付の返信の中で触れており[38]、この写しが残されていた[39])。なお、ハヤカワ版の「TARZAN BOOKS」は、『ジャングル・ブック』にちなんでつけられている[40]

キップリングは、バローズと本シリーズを、自伝『多少なりとも私自身』(SOMETHING OF MYSELF,1937)の中で「模倣」、「ドタバタ化」として痛烈に批判した[41]

H・R・ハガードからの影響

本節は、『ターザンと蟻人間』の解説である、森優の「ターザンと洞窟の女王」による。

キップリングは、『ジャングル・ブック』の着想の一つとして、『多少なりとも私自身』の中でヘンリー・ライダー・ハガードの『百合のナダ』(NADA THE LILY)を挙げている。これにより、バローズはキップリングから、キップリングはハガードから、という経路が確認できた。

森は、「ハガードは有名な作家であったし、デビュー前のバローズはシカゴ公共図書館に通いつめていたから、読んでいないとは考えにくい」とし、次の点を主張している。

  1. 『洞窟の女王』(SHE,1886)の失われた都コルに君臨する白い肌の女王アッシャは、その名を呼ぶことをタブーとされ、「SHE」と呼ばれている。一方、本シリーズでは秘境オパルに女王ラーが存在している。「LA」というのは、ラテン系の言語では女性の定冠詞である。代名詞と冠詞という違いはあるものの、語学に堪能なバローズが、偶然そう命名したとは考えにくい。また、双方の女性が、外部から訪れた白人と恋に落ちる点も共通している。
  2. ハガードの伝記作家モートン・N・コーエンによれば、コルはグレート・ジンバブエ遺跡に一致する、と多くの学者が指摘している。このジンバブエをソロモン王の伝説の都オファーに擬する学者もいる(『ソロモン王の洞窟』で扱われているテーマである)。オファー(OPHIR)とオパル(OPAR)の綴りが似ているのは偶然なのか?

さらに、森はバローズの伝記作家であるロバート・W・フェントンの指摘を紹介している。それは、バローズの小説"H.R.H The Rider"(1918年、未訳。邦題は『騎手殿下』、あるいは『H・R・H・ザ・ライダー』)のタイトルは、「ヘンリー・ライダー・ハガード(Henry Rider Haggard)への手向けではないのか?」という説である[42]

この他、野田昌宏は、『地底世界のターザン』の解説で、ジャック・ロンドンの著作とヘンリー・モートン・スタンリーアフリカ旅行記からの影響を推測している[43]

反響、影響

1950年代の段階で、本シリーズは31ヶ国語に翻訳され、58ヶ国で発売されている[44]1962年に始まった第2次ブームは、アメリカ、イギリスフランスドイツオーストラリアカナダなどに広まっている。アメリカでは、1962年だけで1000万部を売り上げた、とライフ1963年11月29日号、文芸欄)は伝えている[45]。この売り上げは、アメリカのペーパー・バックの総売り上げの1/30に達した[46]

なお、第1作が発表と同時にベストセラーとなった、という説があるが、これは間違いである。何故なら、フェントンの調査によると、1914年の初版は5000部しか刷られておらず、年内の再版分を含めても15000部にしか過ぎないからである[47]。ただし、後年にコロンビア大学が発表した「1875年から1934年までのベストセラー・ベスト65」の中では、第1作が27位に入っており、累計75万部を売り上げた、とされている。また、1945年の段階でのシリーズの総発行部数は、209万部に上る[48]

ドイツ冒涜者ターザン

本節は、『野獣王ターザン』の解説として森優が書いた「シリーズ随一の傑作」による。

第7巻『野獣王ターザン』は、1919年3月から1920年3月まで雑誌に掲載され、1920年に単行本化された。この執筆は、1918年8月から1920年12月までかかっている(ただし、続編の第8巻『恐怖王ターザン』も含む。また、途中の11ヶ月ほどは、別の作品に取り組んでいる)。

ドイツでは、1923年から1925年の間に第6巻までが翻訳され、200万以上のバローズファンが誕生していた。しかし、第一次世界大戦に材をとった本作は、ドイツ軍を悪役としており、ドイツでのバローズ作品の出版を独占していたチャールズ・ディック社の社長、ディックは、本作の出版を見送っていた。

ところが、シュテファン・ゾーレルというジャーナリストが偶然、英語版の本書を入手し、1925年3月に『ドイツ冒涜者ターザン』と題して抄訳版を出版した。そのため、ドイツではバローズ・バッシングの嵐となった。バローズは、フランクフルト・ツァトゥング紙に謝罪文を提出、同紙は態度を軟化させ、バローズの潔さを評価した。

とはいえ、アドルフ・ヒトラーの台頭により、ドイツの文学・映画など芸術に関する統制が苛烈に行われ、バローズ作品も焚書の運命を辿っている。バローズ作品のドイツでの人気再燃は、その後20年以上が経過しなければならなかった[49]

なお、後続の作品では、一時期ではあるものの、ドイツ人のヒーローが活躍、もしくはヒロインが登場している。

  • 『ターザンと失われた帝国』(1928年~1929年)
  • 地底世界のターザン』(1929年。上記の次巻。創元版は『ターザンの世界ペルシダー』)
  • 『栄光のペルシダー』(1937年。上記の続編。創元版は『石器の世界ペルシダー』)
  • "Tarzan and The Tarzan Twins with jad-bal-ja the Golden Lion"(1936年。『ターザンの双生児』の後半部分)

などが挙げられる。

一方で、第一次大戦時期に設定した『時間に忘れられた国』(1918年)などでは、ドイツ人は悪役となっている。また、第二次大戦の時期になると、再び反ドイツ(ヒトラーナチスへの非難)的な作品『金星の独裁者』(1938年。金星シリーズ第3巻。原題は"Carson of Venus")が登場する。

劇中でのバローズ

4大シリーズの内、本シリーズ以外(火星ペルシダー金星)において、バローズは作中に聞き手(仲介者)として登場している。

バローズ作品に聞き手(もしくは語り手)が登場する場合、それがバローズ個人であるか否かは、明言されている場合といない場合がある。前者は『火星のプリンセス』が代表格で、後者には、例えば『時間に忘れられた国』(の第1部と第2部)がある。

明言されていない場合、「明らかにバローズではない」と、ほぼ断定できる場合と、できない場合がある(前者の例は月シリーズの第1部と第2部で、聞き手は1969年に商務長官の後任に指名されている。バローズが存命の可能性はあったが、94歳と高齢になるため、閣僚の任命はまず考えられない)。

本シリーズの場合、第1巻で「私」が酔漢から話を聞かされ、それを調査した、という導入部が採用されている。この時点では、バローズであるとも、ないとも断言できなかった。

類似の例としては、ペルシダー・シリーズがある。第1巻、第2巻では「私」が聞き手であり、バローズであるという決定的な証拠は明示されなかった(むしろ、経歴等から、別人の可能性が高かった)。しかし、第3巻『戦乱のペルシダー』(創元版は『海賊の世界ペルシダー』)において、劇中の重要人物(アブナー・ペリー)とジェイスン・グリドリーの通信に、「エドガー・ライス・バローズ」という名前が出てきており(しかも、バローズはグリドリーと同席している)、前巻までの聞き手がバローズだと確認できる状況になっている。

この続編となるのが、『地底世界のターザン』(創元版は『ターザンの世界ペルシダー』)であるが、冒頭でジェイスンがターザンを訪ねるシーンにおいて、ペリーからの通信文(『戦乱の~』の写し)を提示し、その信頼性に対して「あなたもよく名前をごぞんじの人」[50][51]の署名、と、バローズの名前を出さず、回りくどい説明をしている。

こうまでバローズがターザン・シリーズで自身の名を出さないのか、明言されていない(ただし、第1巻において「主要な登場人物について架空の名前を使う」[52][53]とし、「物語が真実である可能性」をほのめかす演出をしている)。

脚注

創元版は「エドガー・ライス・バロズ」、ハヤカワ版は「エドガー・ライス・バロズ」と表記ゆれが存在する。




  1. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『ターザン』 厚木淳訳、東京創元社創元SF文庫〉、1999年、396頁。
  2. ^ 「訳者あとがき」『ターザン』 395頁。
  3. ^ エドガー・ライス・バローズ 「訳者あとがき」『ターザンの帰還』 厚木淳訳、東京創元社〈創元SF文庫〉、2000年、363頁。
  4. ^ エドガー・ライス・バロウズ 『類猿人ターザン』 高橋豊訳、早川書房〈ハヤカワ文庫特別版SF〉、1971年、13頁。
  5. ^ 『類猿人ターザン』 13頁。
  6. ^ 「訳者あとがき」『ターザンの帰還』 363頁。
  7. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「読者が復活させた英雄の復活」『ターザンの凱歌』 高橋豊訳、早川書房ハヤカワ文庫特別版SF〉、森優1972年、278-279頁。
  8. ^ エドガー・ライス・バローズ 『石器時代から来た男』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1977年、28頁。
  9. ^ 「読者が復活させた英雄の復活」『ターザンの凱歌』 281-282頁。
  10. ^ エドガー・ライス・バロウズ 『ターザンの逆襲』 長谷川甲二訳、早川書房〈ハヤカワ文庫特別版SF〉、1982年、10頁。
  11. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「シリーズ随一の傑作」『野獣王ターザン』 高橋豊訳、早川書房〈ハヤカワ文庫特別版SF〉、1972年、森優、359頁-360頁。
  12. ^ リチャード・A・ルポフ 『バルスーム』 厚木淳訳、東京創元社、1982年、234頁。
  13. ^ 『バルスーム』 234頁。ただし、主人公名は明記されていない。
  14. ^ 『バルスーム』 261-264頁。
  15. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 関口幸男訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、野田昌宏、1971年、289-296頁。
  16. ^ 『恐怖のペルシダー』 289-296頁。
  17. ^ 「史上最大最高の冒険ヒーロー」『類猿人ターザン』 森優、1971年、387頁。
  18. ^ 『類猿人ターザン』 387-389頁。
  19. ^ 「訳者あとがき」『石器時代から来た男』 278-279頁。
  20. ^ 「読者が復活させた英雄の復活」『ターザンの凱歌』 281頁。
  21. ^ 「読者が復活させた英雄の復活」『ターザンの凱歌』 281頁。
  22. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』では1915年となっているが、「帰ってきた英雄」『類猿人ターザン』 森優、363頁に従い、1913年とした。
  23. ^ balu(バルウ)とは、類人猿の言語で赤ん坊のこと。「バルー」は「黄金」、「バル」は「戦い」。
  24. ^ 原題とはかけ離れているが、ライオンが中心となった短編。また、ターザンの独自のユーモアのセンスも発露している。
  25. ^ Teeka(ティーカ)は固有名詞で、ターザンの幼馴染の類人猿(雌)の名前。邦題は今回の重大なアイテム。
  26. ^ 原題とは離れているが、クライマックスを表している。
  27. ^ 『バルスーム』 102頁。
  28. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 294頁では1933年。
  29. ^ 「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 294頁では1936年と1939年の2回に分けて刊行。
  30. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「解説」『ターザンと女戦士』 長谷川甲訳、早川書房〈ハヤカワ文庫特別版SF〉、1979年、353頁-354頁。
  31. ^ 「解説」『ターザンと女戦士』 354頁。
  32. ^ 「訳者あとがき」『ターザン』 394頁。
  33. ^  「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」『恐怖のペルシダー』 289頁によると、「(『トーンの無法者』 (The Outlaw of Torn)は)最初の作品とされ(ている)」とある。
  34. ^ エドガー・ライス・バローズ 「<火星シリーズ>のファンたち」『火星の幻兵団』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1979年、 野田宏一郎、249頁。
  35. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 高橋豊訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、1973年、森優、330頁。
  36. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 332頁。
  37. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 332頁-333頁。
  38. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 330頁。
  39. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 333頁。
  40. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 330頁-331頁。
  41. ^ 「ターザンの祖先たち」『ターザンと黄金の獅子』 331頁。
  42. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「ターザンと洞窟の女王」『ターザンと蟻人間』 高橋豊訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、1973年、森優、301-303頁。
  43. ^ エドガー・ライス・バロウズ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 佐藤高子訳、早川書房〈ハヤカワ文庫SF〉、野田昌宏、1971年、336頁。
  44. ^ 「史上最大最高の冒険ヒーロー」『類猿人ターザン』 382-383頁。
  45. ^ 「史上最大最高の冒険ヒーロー」『類猿人ターザン』 382-383頁。
  46. ^ 「訳者あとがき」『ターザン』 397頁。
  47. ^ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 335頁。
  48. ^ 「ターザン、ペルシダーへ行く」『地底世界のターザン』 335頁。
  49. ^ 「シリーズ随一の傑作」『野獣王ターザン』 361頁-365頁。
  50. ^ 『地底世界のターザン』 20頁。
  51. ^ エドガー・ライス・バローズ 『ターザンの世界ペルシダー』 厚木淳訳、東京創元社〈創元推理文庫〉、1976年、19頁では、「あなたも名前をよくご存知の人」。
  52. ^ 『類猿人ターザン』 11頁。
  53. ^ 『ターザン』 9頁では、「主な登場人物に架空の名前をつけた」。


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